42 音無・春の余興祭り 3

病院の入口には草木が生い茂っていた。
雑草というレベルではなく既に立派に木になっているものもある。心霊スポットではとても有名な場所である筈なのに人が踏み入った形跡が殆ど見られない。そして風は草木を擦り合わせてさらに存在を誇張する。まるでそれは最終警告のようでもある。
電源の切れた自動ドアをゆっくりとナノカ、メイがこじ開けると、中から異様に冷たい風が外へと流れてくる。まるで巨大な何かがあんぐりと口を開けて冷たい舌でべろんと侵入者をひと舐めするようだ。そして、風が止まる。
状態の急激な変化に、そこにいた全員が変化の理由を探そうと周囲を見回す。しかし、どう見てもさっきから吹き荒れていた風は突然止んで草木が擦りあうような音も消えた。
「やめようよ…ほんとにいくの?ねぇ?」
一番背の高いユウカが一番背中を丸めて俺の後ろから病院の中を覗いたり、さっきまで通ってきた道を見たりを繰り返す。
まるでホラー系のアトラクションに入っていく子供のようにどこか期待する顔をしながらナノカとメイは病院の待合室の部分に入っていく。そこに続いて俺、ユウカ、そして最後にナツコが入った。
と、その時、
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
突然叫び声を上げるユウカ。
俺は一瞬、幽霊でも出たのかと、いや、幽霊が叫び声を上げたんじゃないのかって思ったぐらいの恐怖を味わった。でも声の所有者がユウカであることが後で判ってから、むしろ安堵というよりムカつきに変わった。
「変な声あげないでよ!」
「だって…後ろ!後ろ!」
俺が後ろを見てみると、そこにはゆっくりと締まっていく電源が切れたはずの自動ドア。確かに変だ。
「バネ式の自動ドアは無理に押して開けると後でバネが戻って、こんな感じに勝手に締まっていくのですわ…」
ナツコが種明かしをする。
ついでに「もう、それぐらいの事で大声を張り上げないでくださる?」って言いたげな顔をしている。ため息もついたし。そして、気をとりなおして奥へと進もうとした時、つまり、ナツコが自動ドアから目を逸らそうとした時、一瞬、顔の表情が曇った。
「ん?」
その表情の変化に気づいたのは俺だけだったようだ。
ついでなのか、ナツコは表情の変化に気づいた俺に言う。
「キミカさん」
「どしたの?」
「いちおう、緊急時に病院から即座に脱出する必要がありますので、この自動ドア、壊してくださる?」
「ああ、うん、オッケー」
確かに、パニックを起こしそうな奴が一人居るし。こいつがドタドタと走って病院から逃げるときに目の前に分厚いガラス張りの自動ドアが立ちふさがっていたらそのまま突っ込んでしまいそうだしな。
俺はブレードを引っ張り出すと(0.012秒)正面の分厚いガラス張りの自動ドアを綺麗にハート型に切断して(0.023秒)最後に前面方向へグラビティコントロールを加えたタックルを喰らわしてガラスを吹き飛ばした。
「ちょっとあんた何やってんのよ!」
ユウカが言う。
「何って…」
「人が前に居たらどうするのよ…あーあ…ガラスを散らかして…」
人ってあんた、こんな廃病院にひょこひょこやってくる人は居ないって。