41 妄想の証明 5

もう戦車は街中を進んでいた。
街頭では警察の関係者が市民に道を歩かないようにと封鎖している。
子供は初めて肉眼で見る戦車に驚き、そしてカッコイイなどと叫んでみたり、警察や親の制止を降りきって走りだし戦車と並走してみたりする。大人はこれから何が始まるんだろうという不安げな目で戦車を見つめる。年寄りはいつぞやの遠き日々を思い出したのか敬礼などをしていたりする。市民の反応がどうあれ、この戦車が市街地に居ては違和感があるものには違いなかった。
「わかったよ…」
武井は自らが出した答えが正しいかを再び確認するように、何度かノートパソコンのモニタを睨んでから言った。
「おぉ、プレイしていたストーリーはわかったの?」
「紫音のストーリーだ」
「その結末はどうなるの?」
「僕が…プレイしたことないストーリーだ…」
なるほど。それなら、そういうのに詳しい人を一人知ってるぞ。
俺は通信でケイスケに連絡した。
『というわけで、』
『わかったにゃん。紫音の身長は150、バストはDカップ、髪の色は紫で、』
『それはいい』
『ストーリーですかぉ?』
『そうそう』
『まず主人公は紫音と学校の体育倉庫に入って、人が来ないことを確認して紫音の体操服とブルマを脱がして、』
『そういう細かいストーリーはいいから!!…って、まさかエッチシーンしか見てなくて、殆ど全部自動で読み飛ばしていたんじゃないの?まさかそんな事しないよね?』
『紫音のストーリーは最初に主人公の回想から始まって、そこでエッチシーンがあるにゃんぉ…んで、それからずーっと最後までエッチシーンがなくてつまんなかったですぉ』
『いやだから感想はいいから!どういうストーリーだったの?』
『えーっと…』
ケイスケが面倒臭そうに話してくれた。
主人公と紫音は幼なじみだった。
お互いに両思いであることを知った主人公は告白する。
二人は結ばれる…はずだった。
紫音は、父親が軍人で自分も戦争に行くことを志願していた。恋人と一緒にいるか、それとも戦争へと行くか、紫音の中で葛藤の末、紫音は戦争へと行くことを決める。
紫音が戦争に行く最後の夜、主人公と永遠の別れになるかもしれないと、エッチをする。それがケイスケが最初話していた体育倉庫のエッチシーンだな。
数年が立って、紫音は帰ってくるのだが…。
「目的地に…ついたよ」
武井の言葉で俺の思考は停まった。
戦車が最終的に辿り着いたのは市街地の湾岸地帯。コンビナートや倉庫、魚市場に水族館など、もともとそこは軍港で戦闘艦が給油や物資の補給に停泊する場所でもあった。そしてその証として戦後そこに建てられた建物がある。
「戦車博物館…」
戦車が侵入した駐車場のパネルには戦車博物館駐車場と記述があった。
「キミカさん。もうそのストーリーの続きを言わなくても判る。恋人は帰ってきたけど、帰ってこなかった。でしょ?」
そうだ。
紫音は、遺体となって帰還した。
戦車博物館は大戦に参加して、活躍していた戦車が壊れて動けなくなったり、破壊されたもので状態がいいものが保存されている場所だ。つまり、この日本に存在する戦車の事実上の墓場…いや、帰る場所だ。
俺達が乗った戦車は博物館の中を、外を歩き、一台一台の戦車達を見て回っていた。
そしてそこにある全ての戦車を見終わった後、さっきまで鳴り響いていた戦車のエンジン音が停まり、戦車はその巨体を停止させた。
まるで自分の恋人の遺体を確認したかのように。