41 妄想の証明 2

「今から36分前、柏田重工筑紫野工場の第12演習棟にて実弾演習を行っていた多脚戦車『飛影214-D12』が突然暴走し、演習施設のバリアを破壊して逃亡した」
ハラマキの説明を聞きながら、演習施設に設置してあるカメラが録画していた映像を見る。
戦車は設置してある的のようなところに実弾を発射する演習を行っていたっぽい。それが突然、振り返ると演習施設の上部の塔のようになっている建物に向かってミサイルを発射。一発はバリアに着弾して内側で爆発したけど、もう一発は最初のミサイルが爆発している最中にバリアを貫通、塔に命中した。そしてこの施設全体のバリアが解除されて…たぶん、塔にバリアを発生させる装置があったんだろう…それで戦車は壁を戦車砲で破壊して外へと逃げ出した。その一連の映像が流れていた。
ハラマキは説明を続ける。
「柏田重工からは軍へ支援を要請したが軍はこれを拒否。まぁ、これは普通の反応だ。自軍で採用している戦車が暴走して市街地で暴れまわったら軍への不信感は大きくなる。だからこの件に関わらないようにしているのだろう。だが警察もアレを抑えるだけの戦力を持っているわけでもない。そこで君の登場となったわけだが…やれるかね?」
「アレをぶっ壊せばいいんでしょ」
「ま、まぁ、そうだが、本当にやれるのか?」
「戦車の一台や二台なら今まで相手にしてきたし…それにしても、どうして暴走しちゃったの?っていうか、誰か乗ってるんじゃないの?」
ハラマキがハゲ所長を睨む。
ハゲ所長、怯えて身体をすくませて、また頭から汗を出し始める。
「先程から何度も申し上げているが、新型戦車に関する情報があるのなら速やかに提出していただきたい」
ハラマキは語尾を強めて脅すように言う。
それに屈したのか、ハゲ社長は今までの身体に張り巡らしていた緊張の糸を切り落とした。そしてぐったりと身体から力を抜きながら、
「あ、あれには…我社の社員が乗っております」
と掠れるような声で言った。
さすがにこれは想定外だったようだ。ハラマキもミサカさんも驚き、周囲には緊張した空気が漂い始めた。
「何故それを黙っていたのです?」
そうだよ、また余計なものも一緒にぶった斬るところだったよ。
ハゲ所長、問い詰められて観念したのか話始めた。
「あの戦車に乗っていると思われるのは我社の戦車開発部主任の武井です。武井は以前から社内でその…Winnyを使って違法にソフトや映像・音楽データをダウンロードしていたようで、もちろん、私どもも何度も注意喚起してはいたのですが…まさかこのような事になるとは」
「つまり『戦車のAIが暴走していた』ということならマスコミの目に触れる前にキミカ君が破壊してくれるから社の名前に泥を塗ることはないと。だがもし『搭乗している武井が暴走していた』としたら、それは明らかにテロ行為。泥を塗るどころの騒ぎではないという事ですな?」
むちゃくちゃやがな…。
「ところでWinnyってなんなの?」と俺が質問するとミサカさんが答えてくれた。
「有料のコンテンツを違法にダウンロードしてしまうソフトよ。例えば本来なら500円払って購入しなきゃいけないCDがタダで手に入れられるようになるし、地方では放送してないアニメもネットにアップロードされたものがWinnyの通信網から手に入ったりするのよ」
「へぇ〜」
「それじゃ、お願いね。キミカちゃん」
「は?」
「戦車だけを攻撃して乗っている搭乗者を引き摺りだすのよ」
「そんな器用な事できるわけないじゃん!」
俺とミサカさんのそんなやり取りを見ていてハラマキはハゲ所長に言う。
「我々でもできる事に限界はある。最善を尽くすが、もし失敗すれば戦車ごとお宅の社員を殺す事になるが…?」
ハゲ所長は俯いたまま、
「かまいません」
そう言い放った。