39 勧誘せよ24時 3

「え、ちょっ、何やってんの水泳部…」「うおお!」「え?どうしたの?罰ゲーム?」「まさか勧誘じゃないよね?」「藤崎じゃねぇ?何やってんだろ」「うっひょー!」
そういった様々な声が俺の前を通り過ぎていった。
流石に俺だけ水着というのは可哀想だし違和感があるという理由で俺の隣にはキャプテンの水口が腕を組んで立っている。ちなみに男だからという理由で水口は本当に水着だけだった。いや、正確には靴下と靴を履いてるわけだけど、それはそれで違和感が出まくっていた。「違和感」とかいう言葉を、そもそも「校門前に水着で立っている人」が使うなよって感じですが。
「隣のは水泳部のキャプテンじゃねぇ?」「うわ…」「またキャプテン、何かやらかして罰ゲームしてるんじゃないの?」「あれに勧誘されたら逃げちゃうよ、私」「ほら、水口君じゃない…2組のさ…あ、やば、目が合った」「やーん!マジ興奮」
水口は水口で言われたい放題だよね。
一方で他の部員は決して俺達だけを罰ゲーム…いや、エサとしてそこに立たせて置くだけではなく、自分達も参加していた。そう、それは言葉に言い表すのなら、サバンナで飢えたライオンが草食動物を物色するかのような、物々しい眼つきで。
「ねぇ!ちょっと、そこのあなた!あなたよ!あなた!」
「ひっ」
真新しい制服が新入生の証。穢れを知らぬ少女のようにも見える。そして女子部員はそういうか弱い(脅しが効きそうな)女の子を中心に狙っているようだった。
「水泳部に入りませんか!」…という感じで、入りませんか?ではなく、入りませんか!と語尾が既に疑問形じゃない。
「えーっと…」
そのか弱そうな女子生徒はまず水口のほうを見る。
まるで男性の陰茎かのようなそびえ立ち方…失礼。つまり、女子が惚れてしまうような雄々しくそびえ立つ筋肉の塊がある。そして頬を赤らめる。多分この時は「あたし水泳部に入ろうかな?」なんて心の中で思っちゃたりするのだろう。
しかし隣に視線を移すと、自分と同じ様な背格好の女の子…つまり俺だが、その女の子が申し訳なさそうにスク水を着て立たされていて唯一着る事を許されたブラウスを寒そうに着ている。
そしてそのか弱そうな女子生徒は多分この時「え、何?何の罰なの?この子虐められてるの?!」と思うだろう…。
「ちょ、ちょっと…考えさせてください」
そう言ってか弱そうな女子生徒はそそくさと逃げていった。