39 勧誘せよ24時 1

満開の桜並木の下、真新しい制服で登校する生徒達。
どこの学校も今のこの時期はそんな年に1度ある貴重な風景を楽しめる。そう、今は4月。入学シーズン。もともと学校にいた上級生達はその来訪者に少し違和感と期待を覚えながら、新入生は新入生でこれからの希望と不安を抱きながら、桜並木の間を歩く。
寮で生活している人は別として、その新入生達が普段の授業から離れて上級生達と出会う機会っていうのが部活だ。俺は外側は女ではあるけども中身は男であるわけで、健全な男の子としてやるべき事を一つ言えと言われれば自然と新入部員の顔を見に行く事…いや、正直に言うと新入部員が俺が紛いなりにも存在している水泳部で水着姿を公開しているのではないかと思って足を運んでしまった。
ここで「運んでしまった」っていう言い方をするのは、あー運ばなきゃよかったなー。なんて意味と捉えてもらって全然構わない。
俺が想定していたのは新入部員が初水着姿を公開して恥ずかしそうに体験入部している様子だったのだけれど、既に十分に膨らんでる胸をさらに期待で膨らませて急々と水着に着替えてプールサイドに向かったならば、そこにはそんな風景はあるわけでもなく、プールサイドに座って何かしら難しい顔をする部員(女子・男子)達と、その前で引き締まった身体を見せながら同じ様に難しい顔をしている部長の水口明(みずぐちあきら)が居た。
「あれ?新入部員の女の子は?」
という我ながらさすがにそれはないだろうというレベルの恥ずかしい質問をしてしまい、ちょっと女子の目が居たいんじゃないかな?とチラチラと女子達の顔色を伺ってみたけども誰一人としてその変な質問に反応する余裕を見せないぐらいに難しい顔をしていた。
「新入部員の女の子どころか、男の子も居ないんだよ」
と部長の水口が言う。
「え〜…え?…え〜…」
ナノカも幽霊部員のはずだけど今日は参加してるらしい。
「キミカっちの元いた学校だと部活の見学には人が集まってくるものなんだよね?」
という質問を投げかけてくる。
確かに俺が前にいた学校だと、運動部系は見学する人が多かったような。人気のある部とかはすぐに人が集まってしまって、ちょっと多すぎると先輩達が才能がある部員かどうかを確かめるためにテストしてたっけ。でもそういう時に以前そのスポーツをしていた経験があって調子に乗って実力を見せると、後で色々と他の部員に追い越されて虚しい思いをするって友達が言ってたっけ。まぁ、それはともかく、部員が集まらないっていう状況は俺が前にいた学校では考えられなかった。
「スポーツ関係の部はすぐに部員が集まっていたような…っていうか、こんな立派な温水プールがついてる部活なのに人が来ないって、いつもそういう感じなのかな?」
「まぁ、そのあれだよ。ここはそもそもお嬢様学校なので、水泳部は特に拒絶されるんだよね。まぁ、あれだな、裸を見られたくなーい!っていう奴かな。共学になった後も入ってくる男子は普通の学校の男子と違って、女の子みたいな弱々とした感じのばっかりで」
と、そこで男子部員からの野次が。
「弱々しくて悪かったな!」「すぐ勃起するキャプテンにはかないませんよ」「水口菌!」
こういうのはいつもの事として、部員が集まらない理由は理解したよ。でも本当に水泳やってみたいっていう人も居るだろうに。
「やっぱ勧誘するしかないかな」と水口キャプテン。
「男の子はキミカっちで釣ろうよ!」とナノカ。
いや釣ろうよって俺は釣りエサじゃないんだからさ…。