38 ◯◯の妻 4

結局、式典とかは中止になった。
俺達はケイスケが運転するリムジンで家に帰る。その背後に同じくお父様の部下が運転するリムジンが、何故か後をついてくる。
「ど、どうしてお父様がついてくるのかしら?」
と不安気に後ろの車を気にしているナツコ。
「し、しりませんぉ!!」
運転しながら同じ様にチラチラと後ろを見るケイスケ。
「キミカちゃん!どうしてドサクサに紛れてお父ちゃんを殺してくれなかったんですかぉ!」
「いやいや…あたしは民事不介入です」
「お父様も悪運がお強いですわ…あれだけの銃弾の雨の中で傷一つ負わないとは。やっぱりキミカさんの攻撃で縦に真っ二つにするのが確実ですわ…いや、横にまず真っ二つにしてから縦に真っ二つにするのがいいのかしら」
君たち、実の父になんて事を言ってるのさっきから…。
家についてからだ。
「いつものアレをやってなかったんでな」
そう言って家に上がる父上。
「(アレ?アレって?)」
俺は小声でケイスケに耳打ちする。
ケイスケががくがくと震えながら、
「(お部屋チェックですぉぉぉおおぉぉぉ…)」
と言う。
お部屋チェック?
あー。それで部屋を片付けていたわけか。
アレだけの事があっても忘れずお部屋チェックに来たわけか、お父様は。これだけしつこい(しぶとい)と確かに殺してくれればよかったのに、っていうのは理解できないわけでもないなー。
まるで悪い事を隠してる子供がそれがバレるのを気遣いながら、後ろめたさで下を俯いたままのケイスケとナツコを引き連れて、お父上様は階段をゆっくりと上がっていく。
最初はケイスケの部屋のお部屋チェックだ。
部屋に入ったとき、アレだけ沢山あったアニメグッズが全て無くなっている事に俺も驚いたぐらいだ。ゴミゴミしたグッズが無くなった部屋は一人ぐらし用に用意された部屋のような質素な感じだ。そしてそれを案内する不動産屋のようにケイスケは、「ど、どうですかぉ?綺麗なお部屋ですにゃん、駅から30分。立地は最高ですぉお!」と言っている。
お父様はケイスケの部屋を見渡しながら、
「ふむ。実に質素になったな。質素すぎるぐらいに。というか、あまりに質素すぎて不自然な気もするが…」
「そそ、そそそそそそ、そんな事は、ななななななななななななななな、ないにゃん!普通の部屋ですぉ。学生時代と変わらずの」
学生時代からお部屋チェックとかやってるのかよ。
まぁ、変なものが見つかるというシチュエーションにはならないっぽい。
安心したのか、ケイスケが額に噴き出る汗を腕で拭いた。時に、ちょっと上を見たのだ。そして目を見開いた。
ん?何がどうs…
「あ」
俺は思わず「あ」って言ってしまった。すかさずケイスケが俺をひっつかんで口を手で塞ぐ。
天井だ。
天井にアニメのポスターが貼ってある。
「ん?どうした?」
ケイスケ父が俺とケイスケを見る。
「なななななななななななななななな、なんでもないにゃーん」
「そうか。てっきり天井に何かあるのかと思ったぞ」
「ない!ないないない!何もないですぉ!!ささ!お時間もないのですから、次はナツコの部屋を確認する時間ですにぃ!」
強引に部屋から追い出すケイスケ。
そして4名はナツコの部屋へと向かった。
「これまた質素な部屋だな」
「と、当然ですわ。埃一つ落としていませんもの。埃はバイキンの宝庫ですわ。ゴキブリのエサですわ」
ナツコが自慢するのも無理はない。ケイスケの部屋が中にあるものをどこかへ全部持っていっただけに対して、ナツコの部屋は全部どこかへと持っていただけではなく、雑巾がけをして埃一つ落ちてないようにしてるのだ。
「ふむ」
納得しているような父親の顔を見て、ナツコは胸を撫で下ろし、顔を下に向けた。その時だった。まるでナツコの顔がホラー映画をみて恐怖のあまりアニメ顔が劇画調に変わるような感じで真っ青になった。
いったい何があr
「あ」
俺は思わず「あ」と言ってしまった。
「(キミカさん!)」
ナツコは人差し指を口に当てて「静かにして」というジェスチャーをする。それもそのはずだ。ベッドの下からチェーンソーがはみ出ている。
いや、なんでそこにチェーンソーが転がってるの。
「(普段見ているものだから、部屋の背景と一体化してて気づきませんでしたわ…)」
いや、まぁ、それは俺もあるけどねぇ…。
まぁ、結局、二人のヤバイ部分はお父様に露呈すること無く、お父様によるお部屋チェックは終わろうとしていた。のだが…。
「もう一つ見ておかなければならんところがあったな」
「え?」「にいぃ?」
ケイスケとナツコが反応する。
まだ見てないところがあったっけ?
「ケイスケのフィアンセの部屋だ。同居しておるのだろう?」
まぁ、俺の部屋ってある意味質素だからな〜。普段生活するのはリビングだし。あるとしたらベッドぐらいじゃないかな。