38 ◯◯の妻 3

俺は武器リストからプラズマライフルを取り出す。
それから望遠モードでドロイドの運搬用車両の運転席を見る。テロリストらしき連中が運転しているのが見える。そいつが何かのパネルをポチポチと指で押すとドロイドが排出されている。
ライフルの照準を運転手に合わせて弾をぶち込む。
フロントは真っ白になる、その向こう側は真っ赤になっているのが伺える。そのまま運搬車両は路肩に突っ込んで、反動で中央線に戻り、そしてまた路肩へ突っ込んで停まった。
武器をショックカノンに切り替え、先ほど排出されたドロイドに狙いを定めて撃つ。最初の一撃はバリアーのエフェクトが出て、そこにすかさず2発目をぶち込む。そして木っ端微塵になる。
さっきみたいに車に張り付かれたら、俺は大丈夫だけどケイスケはそのお父様がどうなるかわかったもんじゃないからな。ちょっと男らしくないけども、遠くから始末させてもらおう。
最後のドロイドを撃とうとした時、ナツコを人質として乗せた車から黒服どもは激しく俺に向かって銃弾の雨を浴びせる。が、それらを一つ残らずブレードで弾き飛ばす。
「ヤクザの妻ァ舐めとったらいかんぜよ!!」
一度言ってみたかったんだよね。このセリフ。やっぱりコレが日本の女、大和撫子だね。その声が届いたか届いてないか知らないけど、連中は銃を撃つのを止めた。いや、撃ち切ってマガジンの入れ替えをしなきゃいけないらしい。だが、普通のヒーローと違って俺はご親切にも敵に攻撃のチャンスをあげるようなマネはしない。
俺は連中の乗るリムジンっぽい車のフロントに飛び乗る。軋み、凹むフロント。そしてマガジン装填を終えた助手席と運転席の黒服野郎がフロントガラス越しに俺に向かって銃弾を雨を浴びせようとするよりも先に、人間の目では見えない速さで斬る。フロントガラスがブレードによって切断された後、テロリストの男達は自分達が斬られていた事に気づき、死ぬ。
そして少し遅れてテロリストどもを助けようと間に入り、俺に飛び掛ってきたドロイドに蹴りを入れる。一撃でバリアを破壊し、そのままブレードで十字斬りして始末する。
肉塊2名に運転する事ができるわけでもなく、車はそのまま運に任せて右へ左へと暴走し始める。俺はグラビティコントロールを車に思いっきり掛けて、道路が凹むのも気にすること無く、車の動きを止めた。よくみるとエンジンも含めてフロントはぺちゃんこに押しつぶしていた。
「ふぅ。これで一安心」
と言った時、リムジンぽい車の後部座席が開いて、ナツコの黒服野郎が出てきた。黒服は銃をナツコの首に突きつけている。そして何かよその国の言葉で叫んでいる。武器を捨てろって言ってるのか?
「だが、断る」
とりあえず一言、そう言って、黒服に近づく。
黒服は叫んだ後、トリガーを引いた。
その銃弾がナツコの首に命中する前に、グラビティブレードで弾き飛ばした。ナツコを掴んでいた黒服野郎の身体ごと。
全てが終わってから。
「見事だった…」
背後から声が聞こえる。
このケイスケの親父も凄い。あれだけの銃撃戦で一般人なら腰が抜けて動けないはずなのに、ひょこひょこと歩いてきて俺に震えてない声でそう言ったのだ。
「いえいえ、この程度の事。朝飯前です」
刀をしまいながら俺が言う。
「まさかワシの部下にテロリストが紛れ込んでいようとは…迷惑を掛けたな」
「そのような事はありません。このような危険はいずれまた来るでしょう。その都度、彼ら危機には『土に』お還りいただくだけです」
「さすがはケイスケが認めた妻、いや、フィアンセだ…言葉に趣がある」
何か深く納得したように頷くケイスケ父。
暫くすると俺達の顔色を伺って出番を待っていたかのように、のろのろと警察や軍の車がやってくる。案の定、そういう時はすべてが終わった後で、「大丈夫ですか?」とか言ってたりするものだ。っていうか、あんた達もうちょっと早く来てくれたらいいのに。俺がいたからいいものの。
ケイスケ父は軍の関係者らしく、多くの人に慕われてはいるいっぽうで敵国の兵士からしても首を斬って持ち帰りたいぐらいに重要視されている。度々こんな感じでテロにあっているらしい、ってどんだけー…。