38 ◯◯の妻 2

よく見ると、俺達が乗る車の周囲にはさっきの黒服達が乗っていた車が並走しているわけだけど、そこからマシンガンで攻撃されてるみたいだ。このお父様、部下に裏切られてるっぽい。
「ひーっ!まだ死にたくないぉぉ!」
車内にまだ俺達が生き残っている事を知ってか、黒服どもはまたマシンガンを取り出す。俺はその弾丸発射角度を見て刀ではじき飛ばした。車内に跳弾しまくる弾。デブの悲鳴。さっき気の利いたジョークのつもりで銃をバーンと撃つ真似をしていた運転手は、俺が全ての弾丸を弾き飛ばすのを見て焦ったのか、今度はジェスチャーでもなんでもなく、懐からハンドガンを取り出すと俺に向かって撃とうとする。だがそんなすっトロい動きで俺に弾が当たるわけでもなく、俺は椅子ごと運転手の首を跳ね飛ばしてグラビティコントロールで死体を道路に転がす。
「ひーっ!!!」
「ちょっと、ケイスケ、運転して」
辛うじてグラビティコントロールでハンドルを操作していたけども、運転免許持ってねーし、長続きもしないからケイスケに運転を交代。俺は一言、
「お父様、伏せていてください」
と言ってお父様に弾が当たらないように低い姿勢を取らせる。
武器リストからレイルガンを引っ張り出すと、俺は黒服どもが乗っているリムジンの運転席に向かって撃ちまくる。ガラスと血飛沫が空を舞いながら車は路肩に突っ込んだ。
『キミカさん!』
通信からナツコの声。
『大丈夫?今どこ?』
『キミカさんが撃たなかったほうの車ですわ…』
『あぁ、ごめん、忘れてた…』
そうだった。ナツコは人質という形になってるわけか。
『この方々の中に、お父様への反乱分子の方々が混じっていますわ。それに制圧されていますの。ちなみに、』
『日本語を話さない人達でしょ』
『そうですわ』
『とりあえず、人質を解放する為にそっちにいくよ』
『キミカさん…無傷で助けて欲しいですわ…手荒なマネはわたくしの周囲にだけお願いしたいですわ』
『了解了解…にしてもこれはちょっと動きづらいな』
(ベリベリ)
俺は着物の股の部分をブレードで切って足がもっと広げられるようにした。やはり和服は戦闘向きではないですよねー。
『な、何をしていらっしゃるの?今不吉な音が聞こえたのですけど』
『気のせい気のせい』
俺は邪魔なワゴンの後部をブレードで切り落とした。後方に吹き飛んでいくワゴンの一部。そしてそれは俺達を追いかけていた黒服達の車に命中した。これがナツコの人質にされている車かな?
『キミカさん…走行中の車からモノを落とさないでくださいますか…死ぬところでしたわ』
『めんごめんご!』
さあて、行きますか。
俺がブレードを抜いてナツコを人質にとった連中の乗る車へと飛び乗ろうとした時、黒い塊が道路から走行中の俺達の車へと飛び乗ってくる。ドロイドだ。車体はそれだけの重量を支えきることは辛うじて出来ているぐらいで、ドロイドが乗る分だけ後ろが凹んでいる。
最初は警察のドロイドかと思った。だが、こんな強引な方法で人質が乗っているかもしれない車へと飛び乗ってくるのはおかしい。
案の定敵の手先だった。
ドロイドどもはケイスケのお父様を見つけるなり、腕についているマシンガンを向ける。
そこへ俺のブレードの一撃が邪魔をする。腕を切り落とされたドロイドはバランスを崩して道路へと落ちるが、そのまま速度を上げて追尾する。そして別のドロイドが乗り込もうとしてきたので、そちらにも挨拶がわりに蹴りを入れる。後方へと吹き飛ばされるドロイド。そのままトラックのフロントにぶつかって、押しつぶされ、鉄くずとなって消えた。
「キミカちゃん!横!横ですぉ!!」
ケイスケが叫んだ瞬間、メキメキと音を立てて車は右の方向へと傾く。窓越しにドロイドが車にしがみついてくるのが見える。
「ケイスケ!壁に叩きつけてやって!」
「うひぃ〜!」
ケイスケはハンドルを回して路肩へと車を寄せる。そのままドロイドを騒音防止用の壁へと叩きつける。車の後方に鉄くずになりながらくるくると回転しているドロイドの陰が見える。
『キミカさん、わたくしの後方から敵の支援が着ていますわ。黒の歪な形のトラックは視界に入っていて?』
『黒の歪な形…あぁ、あのバキュームカーみたいな奴?』
『それはバキュームカーですわ…その後ろ』
『なるほどね』
バキュームカーのそれよりも2倍ぐらい大きなトラックが走っている。その側面から大きな黒い塊がゴロゴロと道路に流れて、その塊から足が生え、手が生え、とどのつまり、ドロイドの運搬用のトラックだった。