38 ◯◯の妻 1

まるでヤクザの組長が刑務所へとお勤めにいくのを部下達が送りに行くかのような物々しい雰囲気で黒服・サングラスの男達はケイスケの父親の周囲を囲み、式典へと向かうご立派な車へと乗り込む。
そのご立派な車には俺とケイスケ、そしてケイスケの父親が乗り込んだ。ナツコはというと、さすがは女はこういう時には狡賢さというのが働くものだ、別の車に乗りやがった。
そしてヤクザの親分を乗せた車ご立派な車が…いや、ケイスケの父親を乗せたご立派な車がエンジンをふかして、体重の重いケイスケに尻を引っ張られながらも進んでいった。
車の中は非常に豪華で、ちょうど映画なんかではこういった車には冷蔵庫やらグラスなどが用意されていて、シャンパンやらドンペリみたいな高級なワインが出てきて、それらを飲んだりも出来るものだ。映画の中で出てくるリムジンって奴かな、あれは車高が低いけど、これはワゴンのそれよりも若干広い。トラックの荷台をリムジン仕様に改造したとも言えるぐらい。
車が発車してからしばらくして、非常に揺れが激しい事が分かった。それもそのはずだ、ケイスケが激しい貧乏揺すりをして車を揺らしているのだ。
そろそろ来るぞ〜…何が来るかって?
お父様だよ。
「ケイスケ。なんだその足は。車を破壊する気か?」
「にゃッ!!、気のせいですぉ、全然そんな気ありませんにゃん!」
「まったく、はしたない。貧乏とは金が無いから貧乏なのではなく、貴様のようにナリが貧乏なところへと集まってくるものなのだ。いつでも高貴であれ。高貴な者のところには高貴な物が集まる」
「僕は金持ちなので金持ち揺すりだにゃん」
などと言って、ニコニコしながらまた貧乏揺すりを始めるケイスケ。なかなか度胸のある奴じゃん。いや、勘違いしてるだけだったみたいだ。
「その足、切り落とすぞ」
お父様が仕込み刀からチラリと刃を見せるとピタリと貧乏揺すりを止めるケイスケ。でもなんだかさっきから車が揺れてる感じもするんだけど…?
「ケイスケ…貴様、まだやるのか」
「ち、違うにゃん!」
違う?じゃあこの揺れは何?
すると、運転席で静かに運転していた運転手がこちらを向いて何か言っている。日本語ではない。発音からすると中国語のような感じにも思える。
「貴様、何奴だ」
お父様はその運転手の不適な笑みに嫌悪感たっぷりで答えた。すると、まるでそれに反応するかのように、その運転手は片手で指を「銃の形」にして「バーン」と声を出して、お父様に向かって撃つ真似をした。
と、思った瞬間。俺より後ろに座っていた黒服の男の身体が電気でも走ったかのようにビクビクビクと揺れた。それだけじゃない。周囲に血しぶきが上がって、対面に座っていた黒服の男も銃痕のようなものが見える。
「ひぃぃぃぃぃぃぃ!!!攻撃されてるにぃぃぃ!!」
マジかよ!