37 ◯◯がやってくる! 1

ユウカ達との旅行を終えた俺はまた再び、家でののんびりとした自堕落な春休みを過ごすことになった。
そんなある日、ケイスケが大声を張り上げながら家に走ってきた。
タクシーを使って帰ってきたみたいだ。
俺も昔家族がと一緒に暮らしていた頃、おじいちゃんが病気で亡くなったわけだけど、その時は学校に母親がやってきて「おじいちゃんが亡くなったの、急いで帰るわよ」と引っ張られてタクシーで家に帰った。そういうイメージもあってか、よほど大変な事が起きるのだろうと俺はソファーに力なく寝転がっていたのをピンと背筋を伸ばしてケイスケの元へと駆け寄った。
ケイスケはタクシーから降りるなり金も払わずに家のドアを開けて玄関にへたりこんだ。タクシーに乗ってきたはずなのに全身汗まみれで息を切らしていた。タクシーから家までの距離は3メートルぐらいしかないのだが。
「た、たい、たいへ…、たい、たいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたい…大変です…ぉぉぉぁぁぁ!!」
絞りとるように声を発するケイスケ。
何事かと2階からケイスケの妹であるナツコが降りてくる。
「お兄様、どうしたのですの?」
ナツコも顔を強ばらせて兄の回答を待つ。
「お、お父様が…い、家にやってk…」
お父さんが家に来る?
家に来るっていうか家に帰ってくるって事でしょ。そもそも親と一緒に暮らしてたくせに、今更家に帰ってくるぐらいで何をそんなに慌てる必要があるんだろ?アホか?
「ひさしぶりの家族再会じゃん」
と俺が言おうとした、「家族再開」の「か」のところで突然、モモンガが自分よりも大きな獲物に跳びかかる時のように、ケイスケは両腕を大きく広げて俺の肩をガシッと掴んで、上下左右にガクガクブルブル揺らしながら、
「な、なにklkjふぁれあljlkjfdさふじこ!!!!!」
と意味不明な言葉を放つ。
ドタドタと俺の背後で足音。
見ればナツコが2階へと駆け上がっていく。
なんだぁ?何が起きてるんだァ?