36 お泊り会 in Tokyo 9

まだユウカは思い出話モードで話続けてる。
「小さい頃、いじめられた事があって…理由は思い出せないけど、私も昔っから結構男の子相手でもつっかかっていく感じでさ。それが気に入らなかったのか、私に暴力振るってきた人達がいたのね」
「うん」
「その時、キミカが助けてくれたの」
あぁ、そういえば、そんな事があったような…。
そっか、昔の俺は無邪気だったんだな。
恐れを知らずに向かって行くなんて。
っていうか、誰に向かっていったのかは思い出せないので人の脳にある記憶を勝手に保管する機能が働いて「ドラえもんに出てくるジャイアン」みたいなキャラを勝手に作って、そこに向かっていく俺を想像していた。
「私にとって、キミカはヒーローなの」
ヒーロー…。
「え?…あ、うん、…そう」
とちょっと焦りながら返答する。
それは聞きたかったな。出来れば俺が子供の頃に。まぁ、男で「子供の頃」の俺がそんなの聞いたら調子こいてたと思うけどさ。幼なじみにそう思われてたと思うと…。なんだかな。
「挫けそうになったとき、何度も何度も、キミカの事を思い出して自分を律したよ。嫌な事があっても前向きに考えて。小学校にあがってからはキミカともあんまり口きかなくなっちゃったけどさ、ずっと頑張ってる私を見てもらってるって思ってた。子供の頃は病弱だったしさ、情けない姿をキミカに見せたくなったっていうのもあったのかな。クラスの中心になって、委員長とか自分から進んでやってさ、頼られるような人になりたかったの。それからキミカは他所に引っ越しちゃったけど、次に会ったとき、強い女の子になったって思ってもらいたかったの」
次に会ったとき…。
それは葬式の時だったか。
「なんの為に、頑張ってきたんだろ…もうキミカ、死んじゃったのに」
最後は涙声になっていた。
なんだか沈んだ雰囲気になっているユウカ。
「そ、それは、きっと見てくれてると思うよ?ほら、お星様になって…」
と、慰める俺。こういう時本当の女なら「あっはっは!泣いてるよコイツ」とか言って勝利宣言するんだろうな。俺は男だからさ、女に泣かれると自然と焦るんだよね。理由は分かんないけど。
「うん…。時々ね…私の側に今も居て、ずっと私の事を見てくれてると思うの。泣いたりして、ばかだなぁ、こいつって思われてる気がするの」
いや、実際に隣にいますが…。
見てますよ、特におっぱいの部分を…。バカだなぁとは思ってないけど、バカでかいおっぱいだなと思ってたりする。
「それで、その、ドロイドバスターキミカは、実はキミカじゃないのか?なんて思ったりするの?」
「うん、そうだよ。絶対に。天国に行ったキミカが生まれ変わったんだと思う」
「あー、うん、そうだね、そうだよ、たぶん」
「何よ、さっきから…すっごい返答が適当」
「そ、そんなことないよ!…っていうか、その話ってナノカとかにもしたの?」
「してないよ。…はぁ〜。なんであんたに話したんだろ?話すつもりなんてなかったのに」
「誰にも話してないの?」
「話してないってば」
「あー、それじゃあ、たぶん、今、口に出した事でそれがキミカに届いたんだと思うよ。そういう気持ちって口に出すと霊界にも届くとか言うじゃん」
「そう…なのかな?」
ユウカはぐーっと背伸びをした。おっぱいが湯船からコンニチワする。そして、
「んー。なんだか楽になった。ずーっと貯めこんでたのが放出されたみたいな気分」
勝手に泣いて、勝手に復活しやがったコイツ。
それにしても…。
ユウカはユウカで、なんか重いものを背負ってしまったな。俺が死んで(という事になってて)最初はすっごい適当な扱いしてんだと思ったら滅茶苦茶重要人物じゃん、俺。そっか…そうだったのか…。
「ん〜…なんか、ごめん」
俺は無意識にその台詞が出ていた。
「な、なによ。気味悪いわね」
「別に」
俺にできるのは、俺を失ったっていう事で人生が曲がっちゃわないように、道しるべになってあげる事だけか…な…。