36 お泊り会 in Tokyo 8

「えーっと、じゃぁねぇ…」
と俺が次の官能小説を思い出していると、
「キミカとの思い出って、あんまり無いのね」
と、ユウカは何かを悟ったように言った。
「まぁ、そうかな」
「私は子供の頃かなぁ。幼稚園だか小学低学年の頃だったかな。キミカとは幼なじみだけど、その頃の記憶しか残ってない。住んでたところが過疎ってるところだったからさ、同い年の子はキミカしかいなくってさ、いっつも二人で遊んでた」
俺自身は憶えていたかもしれない記憶。
けれど思い出そうとはしていなかった記憶。
ユウカの話が俺の頭の中で、バラバラのピースになっている俺の記憶の断片を一つ一つ丁寧にかき集めて、本物の記憶にしているような気がした。
「午前中だけ授業がある日とかさ、私のお母さんもキミカのお母さんもお弁当作ってくれてさ、二人で川べりにお弁当持って食べに行ったっけ」
「ふーん」
「将来はキミカのお嫁さんになるとか、そんな事も言ってたような気がする。バカだよね…まだ子供なのに、ずっと未来の事を考えてるなんて」
「…」
お嫁さんのくだりは思い出せなかったけど、二人で行った川べりは思い出した。
田舎のボロい橋だったかな。何故かガードレールもないぐらいの小さな橋で、子供ながらにあれから落ちたら人生おしまいだとか思ってた。その側には雑草が生え散らかした汚らしい小道があって、そこで草の実をズボンにタップリとくっつけながらかき分けて進んだ先に小さな、本当に小さな川べりがあった。きっと大人の俺が言ったら座ることすら出来ないぐらいの。
幼稚園だか小学校だかでみんなでピクニックに行ったときに、シートを地面に引いてそこでご飯を食べるっていうのをやった。そして同じ事を自分達だけでやってみたいなんて思ってたんだろう。その川べりの丸い石が転がっている上に、遠足用のシートを引いて、ユウカと二人でご飯を食べた。
俺とユウカだけが知っている思い出。
「あの頃は楽しかったなー」
なんて言うユウカ。
あの頃はってお前、あれから学校でお前はどんどん俺から離れていったじゃないか。リア充でいつもクラスの中心で…。俺はいつもクラスの隅っこにいたような気がしたな。女子と話す事なんて殆ど無かったっけ。
「それはよかったね」
なんてちょっと皮肉っぽく俺は答えるも、ユウカは久しぶりにする思い出話であまり俺の皮肉を皮肉と感じていなかったっぽい。