35 シークレット・ミッション 5

アニメショップ1階…。
あの2階の異空間から解き放たれると1階の本屋さんみたいな雰囲気の場所がまともに見えてくる。空気も済んでいるような気がする。あと、BGMもまぁ普通に頭が痛くならない。この普通の空間で異様なのは自分の身長ほどもあるような抱き枕を抱えている俺であるが、今更ながら、俺はこの事態に冷や汗を掻いた。
抱き枕を持って歩いている事、それはもう十分冷や汗を掻くに値する。けれどもアキバに来て感覚が鈍ってきてるんだと思う。別に抱き枕を持って歩いてもいいじゃんと思っていた。そんな俺が何をそんなに冷や汗を掻きまくっているのかというと、この抱き枕、どうやって持って帰るんだ?って事だった。
俺の中にユウカやナノカやメイとこれから地元まで帰る途中の状況がシュミレートされて、そのどのシーンにもこの俺をアニメ化したような抱き枕が存在しているという、考えただけでも発狂しそうになるシチュエーションが予測されまくった。
そのうちユウカには「離れて歩いて」ナノカには「それで何して遊ぶのォ?(笑」と言われ、メイには「お姉様、そんな偽物を抱いて寝なくてもわたくしの(略」が簡単に想像できた。
どうする?
この人生最大の危機をどう乗り越える?
もういっそ近くのドブ川に放り投げてこようかな。
ああ、そうだ。名案があるぞ。
本屋入り口の店員に聞く。
「これ郵送できますか?」
そう、こんな時こそ運送屋さんの出番だコレ。
本当に運送屋ってのは辛い仕事だ。ありとあらゆる人々の欲望を運ぶ。けっして運んでいる私には関係ありませんからーッ、こんな卑猥な抱き枕、好きで運んでるわけじゃありませんからーッ、と叫びながら運ばなきゃ行けない。辛い仕事だ。
「出来ません」
オワタ…。