35 シークレット・ミッション 4

「え?えと、これですか?」
と、これは俺のセリフだ。
「(こくりと頷きながら)…ッス」
「え?本当に?」
「(こくりと頷きながら)…ッス」
カウンターの上にドカっと俺の身体を抱き枕にしたようなものが置かれた。そして周囲の小物売場も圧迫した。隣で精算を終わらせてあの生命維持装置っぽいバッグの中に荷物を詰め込もうとしていた黒ジャンパーの男の購入したものも、俺の抱き枕によってカウンターの上から弾き落とすぐらいの勢い。いや、実際に弾き落とされた。男は「フヒヒヒッ、マジ、ありえないッショ…」とか言いながら自分の購入した物を拾い集めている。
「えと、これ、どうやっ…」
この抱き枕をいれるぐらいのサイズの買い物袋があるのか?
いや、無い。
店員はシールをぺとッと抱き枕のビニール袋に貼りつけただけだ。
「2万5千円〜」
「えぇぇ?!そんなにするの?」
枕でしょ?枕がそんなにするの?いやそりゃ確かに大きいけどさ。
でも、俺は払わざるえなかった。そりゃそうだ。俺の背後には行列が出来ていただからだ。行列の出来るレジ。田舎者一匹の為にこんなに行列を作ってしまってはダメだ。もっとつつましく生きていかなければならないのだ。少なくともこの都会では…。
俺はしぶしぶその抱き枕に2万5千円もの大金を払った。
「ーッドぉッちぃッっかー?」
「はぇ?」
「ーッドぉッちぃスッっかー?」
えっと、何を行っているのかわからないけど、店員はカードらしきものを俺に見せながら声を出した。このシチュエーションだと「カードお持ちですか?」と言っているに違いない。やっぱりジェスチャーは万国共通だよね。でも相手、俺と同じ日本人なんだけど…。
「カードはありません」
「っぃりっすか?」
これは多分「つくりますか?」だと思う。でもこれ以上時間を掛けたら背後から刺されそうだ。黒装束の集団に。俺は「いいえ」と答えて、店員の「ッござッっしったー!」という多分、ありがとうございましたという言葉に送り届けられながら、俺の身長と同じぐらいある抱き枕を抱えて廊下を降りた。
苦労して降りた。