33 田舎から来ました 3

昔は首都は東京だけで、どこへ行っても人、人、人の状態だったらしい。
今は首都はその首都機能としても、人の多さも、3箇所の分散されてしまって、ここ中央首都である東京も南首都と比べると「ちょっとメトロな」感じぐらいしか違いがない。人も昔に比べると多くはないらしい。
それでも俺は田舎者なので南首都には頻繁に行き来したくはないし、ここもそうなりそうだ。女って生き物はこういう人が多いところが好きらしい。ショッピング出来る場所が沢山あるからさ。
ホームを抜けてから広いフロアに出ると、ユウカはPAD端末を出してポチポチと入力をして「まずは日本橋ストアナムへ行きましょ」と言った。どうやら道案内はユウカ担当らしい。
今日はストアナム(南首都にもある巨大百貨店の本店)に行った後のアスティっていう名前のホテルに行く。ちなみに、俺はこの間にケイスケに頼まれているグッズをアキバで買わなければならない。各首都ごと限定販売らしいから集めようと思ったら南首都の福岡、中央首都の東京、北首都の北海道(札幌)の全てに行かなきゃいけないのだ。なんという交通費の無駄。
もちろん、最初は拒否したんだけど土下座して足を舐めてきて、足を舐めるな!というと今度は床を舐め始めたので仕方なく頼まれてあげた。一人で行くならまだしもユウカ達も一緒だしさ、俺がつかつかとアニメグッズの店に行くのはマジで難しい任務なんだよ…。
「どうしたのキミカっち?疲れた顔して」
「あー、いや、なんでもないよ…」
モノレールで日本橋まで移動。
降りたその場所が既にストアナムなる巨大ショッピングモールの一部。
「ひゃー!本店はさすがにこっちにあるやつよりも大きいね〜」
ストアナムの為に作られたという駅を降りたらそこは入り口のフロア。俺が住んでいたところにあった草野球の出来るグラウンドぐらいの広さのフロアは百貨店の別館へと進む中継地点となっている。全ての階から中央の空間を見上げると宣伝用のホログラムが流れている。下から見上げると人が宙を浮いて歩いているように見えるのは、上からの太陽光を下まで届ける為の特殊な素材だとか前に聞いたことがある。
「まずはA館よ!」
ユウカを先頭にしてA館にあるブティックへと足を運ぶ。
さっきのフロアを除けば素人目にはもう他の街にある百貨店となんら変わりが無い気がする…。買い物のプロが見たら何か違うんだろうかな?
昔、百貨店に母と買い物に行ったことがある。
大抵は俺は付いて回るだけで母が服を選んでいる。俺からしてみたら服なんて恥ずかしい部分が隠されていればいいという感じなので、さっさと選び終えてこの人ごみが多いところから出ていきたいなどと思っていたもんだよ。苦痛の時間だった。
着ているモノに拘らないと言えば俺はケイスケが言うようにオタクの素質があるのかも知れないな。着ているモノに拘らないっていうか、人からどう見られるかを意識していないというか。ひょっとしたら何を着てもぱっとしないのは素材がそもそも悪いので、それを判っているから適当に服を選んでいるのかもしれない。ただ、ケイスケはその一方で「女の子」の服を選ぶセンスがある。素材(俺)がいいから何を着ても似合うという考えもある。けれど、このセンスは普通の女性が服を選ぶセンスとは明らかに違う。
普通の女性は服を選ぶ時に流行の服を選んでいるけど、そのどれもが女性が気に入る服であって男性が気に入る服じゃない。その人の魅力が全面に出るものじゃない。
自分の欠点が表に出ないようにする服。目立たない服。逆にスタイルに欠点が殆ど無いのはそれはそれで、男を誘うようなセクシーな服で、目立つ服。男からすると目立たないか目立つかの両極端だったりする。
ケイスケの選んだ服は、例えばドロイドバスターの戦闘服にしても、かっこ良くもあり、可愛くもあり、セクシーでもあり…。言い表せないような微妙なバランスの中にある。黒の素材だけを使ってこれだけ表現できるところが凄い。ケイスケにはデザイナーのセンスがあるかも知れない。かと言って、一方では普段着でも可愛らしさの中にセクシーさが漂う。男を誘おうと意図的に演出しているというのが判らない。着ている服には色気とかが無いはずなのに、ちょっとした弾みで内包されている色気が出てしまうという「まだ心は大人になっていない女の子が身体だけは大人になりつつあって、仕方無しにエロっぽくなる」ような微妙な演出。
つまり俺が何を言いたいかっていうと…。
女が選ぶ服には流行を追いかけているだけで、その服一つ一つに内包されているストーリーが無いんだよな、うん。
「ちょっと、キミカ」
「あ?」
俺がブティックの中に入らずに入り口で腕組をして静かに考え事をしていると、ユウカがまるで俺の母ちゃんの如く手招きをして「あんたの服を選んであげるから」などと言っている。ああ、うぜぇ…。