32 あの日の青い空の下で 5

「ふうぅぃぃぃいい〜。一時はどうなることかと思ったぉ」
ケイスケが団扇でパタパタと顔を仰ぎなら平屋の庭から出てくる。
「うんうん。危なかった危なかった」
と俺も変身を解く。
「危なかったじゃないですぉぉぉおおお!!!」とケイスケは凄まじい勢いで俺の両肩を掴んで揺さぶった。俺の小さな身体はこの普段から家の中にいてひ弱なはずのケイスケにすら簡単に扱えてしまうらしい。空中を俺の変身後のクリーム色の髪がぶるんぶるんと舞う。
「な、な、なななななななんだよ」
「なんだよじゃないですお!!なんで九尾を呼び出すんですかお!」
「食べてるの邪魔するだけであんな事になるなんて誰が思うんだよ」
というやりとりを続けていると、ケイスケに引き続けて平屋の庭から出てきたのはさっきの甲高い声をした双子の巫女さん2名。一人はリボンで髪をくくってポニーテールのようなクリーム色の髪にくりくりとした目と赤い頬の小柄な女の子。ポニーテールには数珠のようなものがくくりつけてある。一人は黒髪ストレートで黒い目、同じく赤い頬で小柄な女の子。髪の先端に意味不明な呪文のようなものが書かれた布がくくりつけてある。
「あれぇ?今ここにキミカちゃんがいたような気がしたのに…」「居たよね〜。変だねぇ」
幸いにも俺が変身を解くシーンは見られていなかったみたいだ。
「き、キミカちゃんならどこかへ飛び立っていってしまったですぉ…」
「えー!!そんなぁ…」「がっかりだよ〜」
同じ様な声でその双子は言う。
「その人は?」「誰なの?」
その質問にケイスケはさっきまでがっしりと掴んでいた俺の肩を話して、「えーっと…」と言いながら、「い、従姉妹の女の子ですぉ。こんな危険なところをうろついていたので何やってんだー!と叱っていたところですにゃん。ひひ」
「んん〜…?」「なんか…」「「あやしいなー」」
双子は俺の周りをぐるぐると回りながらジロジロと見ていた。それから、ポニーテール髪のほうが俺のウエストを両手で掴んで「この細さ…キミカちゃんにそっくり」、俺の胸を両手で掴んで中央に向けて寄せて谷間を作り、「この胸の質量、重量、柔らかさ…キミカちゃんにそっくり」、それから俺のうなじのあたりに顔を近づけて「(くんくん)このシャンプーの香りと石鹸の香り…」「キミカちゃんに」「「そっくり」」などと言う…。
「き、気のせい、気のせい…白目」
「「あやしい」」
二人は砂埃が舞って渦が出来るぐらいに散々俺の周りをぐるぐると回った後に、ふと「では」「次の任務がありますので」「「ちゃお!」」と声をハモらせて颯爽と消えて入った。
それと同時にさっきにぃぁが封印されたあのブラックホールがあった場所が再び何も無いのに渦を巻き始めた。
「え、ちょっ…何?」
黒い渦が現れるとそこからにぃぁ(変身前)の姿が。
「にゃーん」
あのいつもの調子で4つ足でひょこひょこと歩きながらケイスケのもとにきて顔をスリスリとズボンに擦りつけてくる。
「よかった。にぃぁも元通りか」
「ふひッ…ふひひッ…」
ただし、にぃぁは全裸である。
寒くないのかこいつは…。
そういえば、今日はまだ冬なのに春みたいな暖かい天気だな。
ふと見上げた空の色、そして風、匂い。色々なものが記憶の中の奥深くの何かを拾ってきて、そことマッチして「何か」を俺の中に呼び起こした。でもそれが何なのかを具体的に言葉で説明は出来なかった。けれど、その「何か」は今確実に俺の中にある。あの日の青い空の下で感じた何かと同じ「何か」が。