32 あの日の青い空の下で 4

俺はにぃぁの前にでた。
奴は俺が突然目の前に出たことに少したじろいだ。
「今はあいつに取られた320円…あたしの財布に入ってた320円も、立派に役立ったと思うよ、あたしにとってね。申し訳ないけどさ、あんたが代わりになってよ」
「?」
「あん時の借り、返させてもらうよ!」
俺が構える。
そして手を正面に出して、自分のほうへ向かって指をクイクイと動かした。軽い挑発。
にぃぁの戦闘態勢。
「さぁ!楽しもうか!」
言うが早く奴は俺の懐まで弾速で飛んでくる。けれどもそんなのは承知のうちだ。だから俺の動きは、にぃぁの今までの行動パターンから計算して合わせるのだ。決して奴を確認してから合わせるんじゃない。
にぃぁの攻撃に合わせて俺の身体は動く。
まるでにぃぁは空気というものに向かって攻撃しているかのように、全てが無に帰す。
風だ…俺は風になるんだ。
にぃぁの周りに纏わり付く俺という名の風は、奴の攻撃に合わせるように見えてひたすら攻撃を仕掛けていた。だがそれらは全て奴の身体に合わせたもの。俺の強い意思での攻撃じゃない。
楽しい。
すごく楽しい。
勝つか負けるか、生きるか死ぬか…そんなものとは無縁の世界。まるで初めてプレイするアクションゲームみたいな…もちろん、負けることもあるかもしれない。けれど、自分の悪い部分を改善して、あの手この手でどんどん挑んでいく。
にぃぁがマジキレの顔をしている…。
俺に勝てない事で焦りを感じているのか?
「肩の力を抜きなよ」
近くに何かを感じる…。あれは俺の身体から離れたグラビティブレード。俺はにぃぁの攻撃がグラビティブレードのほうへと流れたのを確認してから、ブレードを自分のほうへと引き寄せて武器リストに一旦しまう。
にぃぁは再び、強いなぎ払いの攻撃を俺に向けてきて、俺は身体を反らす。と、その時、俺のブレードの太刀筋はにぃぁのなぎ払いに合わせて、風のように縦に切り裂いた。
「ありがとう。色々思い出したよ」
全てがクリーンに見えた。
頭の中がとてもすっきりした。
その日は決していい天気じゃなかったけど、空がとても綺麗に見えた。
「「悪霊退散!!」」
双子の頭にキンキンするような甲高い声が二人分、揃って聞こえて、にぃぁの周りに黒い円が現れた。
これがケイスケが言ってた巫女さん?
どこにいるんだろうと周りに意識を集中させると、住宅街の平屋の庭に周囲に馴染まないような巫女さんコスチュームの二人の姿があった。うわぁ…ほんと、馴染まないなぁ…。普通に街中をあの格好で歩いていたら職質受けそうな気さえするよ…。
にぃぁの周囲にあったその円は俺のグラビトロン砲のように、にぃぁの身体を包むとブラックホールの中に消滅させてしまった。
かくして平和が訪れたのだった。