32 あの日の青い空の下で 2

完全に9本の尻尾は生えきっていないにぃぁ。
そんな中でもこれだけのスピードとパワーだ。ケイスケは俺すらも凌ぐ強力な兵器を編みだしたんじゃないのかな。制御は何故か非常に難しいけどさ…たいだいお供え物取ったら本気出すってなんだよ。
けれども、強さだけは冗談抜きにして本物だった。
息をする暇も無いほどの攻撃を受ける、というのを俺はそれまで体験したことが無かった。
いや、本当は一度だけそれはあった。
小学生の頃、俺は親と一緒に買物に付き合っていて、一人おもちゃのコーナーへと遊びに行った。そこでその界隈で弱そうな他校の生徒をカツアゲしている中学生と出くわして、簡単に言えば、持っているお小遣いを取られた。
子供の喧嘩というのはルールも無くて、攻撃とか防御なんてものもない。だから見ているほうからしてみたら醜い戦いって奴だ。防戦する側は丸くなって、そのダンゴムシのようになってる奴に一方的に攻撃が加えられる。耐えるか、耐え切れないかの単純な戦い。小学生だった俺は自分がカツアゲされているものともわからず、素直にお金を差し出すわけでもない、だから相手も暴力に訴える事でしか目的を成し遂げられないと考えたのだろう。
俺はおもちゃ屋の隅っこで店員に見つかるわけもなく、その中学生ぐらいのガキに一方的に殴る蹴るの暴行を加えられて、それこそダンゴムシのように身体を丸めて、必死に暴力を耐えた挙句、財布からお金だけを取られた。
取られたのはたいした額じゃなかった。
けれども、俺はそれまで抱いていた社会に対する考え方ががらりと変わるというか、音を立てて崩れるというか…。全てが偽りに見えた。全てが悪に見えた。
テレビでは日曜日になればヒーローモノのアニメなども放映されてはいる。けれども、それは子供の情操教育の為にあるようなもので、ある事ない事、美しく見せているだけだ。そこには本当にヒーローがいるわけでもなく、この世は力があるものが勝って、力の無いものは負ける。
俺がどんなにヒーローに憧れても、そこにいるのはちっぽけなダンゴムシでしか無かった。ただ殴られるのを甲羅が壊れるまで耐えるだけしか能のない、ダンゴムシだ。
だから正義も信じれなくなったし、綺麗なものはみんな醜く見えた。
誰もが必ず通る道だった。