30 リア充記念日 8

放課後前のホームルームの時間。
デブことケイスケは今朝の件で心に引っ掛かるものがあるのか、俯き加減で誰とも目を合わさずに教室に入ってきて、ちょこんと壇上の隅のほうに腰を掛けた。
委員長であるユウカはその日のホームルーム最後の議題として「バレンタイン」の話をした。と、同時にさらに俯くケイスケ。
「先生!」
「な、なんですかぉ…?」
突然のユウカの呼び掛けに身体をびくつかせるケイスケ。
「先生に渡したいものがあります。教室のみんなからのプレゼントよ」
「え?」
ケイスケにチョコを渡すのは俺が適任だという事になっていた。俺は合計3キロの重さがあるチョコの塊を抱えて教壇の上に置いた。ずっしりと重量感があるチョコ。重さで教壇が少し軋む。
「み、みんな…」
涙声になるケイスケ。それから、震える手でチョコのパッケージを一つ手に取ってバリバリと裂いて、中のチョコをちぎっては食べ、ちぎっては食べ、頬をチョコでいっぱいに膨らませながら、
「生まれて初めてのちょほ、ううぅぅ、うれひぃですぉぉぉぉ!!」
と涙を流しながら食べるケイスケ。
牛丼で例えるのなら牛とご飯の量が逆転したようなソレ。喫茶店で言うのなら200グラムのケーキに対しておちょこ一杯のコーヒーのようなソレ…。見ているこっちは気分が悪くなりそうだ…。
「よ、よかったね。食べ過ぎに注意してね」
「みんなの思いがこもったチョコ、全てを先生は受け止めるにゃぁぁぁんん!!!腐らないうちに急いで全部食べるぉ!」
「いや、死ぬって!」
その日の夕方、ケイスケは自宅のトイレに篭って出てこなかった。