30 リア充記念日 3

教室に入るとすぐさまナノカと目があった。
「あ!キミカっち!」
駆け寄ってきて俺に手渡すのは正方形の青の梱包とリボンがしてある物体。どう考えてもチョコだった。
「はい、これぇ!」
「あ、ありがとう!」
やっぱり今日はハッピーデイだ!妄想モードの俺の頭の中ではクラス全員の女子からチョコをプレゼントされる映像が流れている。ほら、また一つ、俺のこの妄想が再現されるかのような出来事が、
「はい。どーぞ」
ユウカも俺にチョコをプレゼントしてくれた。こいつはなんだかんだ言ってツンデレなんだな。ったくいつもはレズビアンは神様の意向に従っていないから邪悪だの劣化人間だのと言ってるくせに。
「ユウカもあたしの事が好きだったんだね…ごめんね気づいてあげてなくて…うふふ」
「え?はぁ?何言ってるのよ…」
「だってこのチョコ…」
「あんたバカァ?これは『友チョコ』っていうのよ」
「は?」
「同性同士で上げる義理チョコのことね」
「な、なんだってーッ!!」
「いったいなんだと思ってたのよ…だいたい、女の子が女の子にチョコをあげるところで違和感覚えなさいよ」
「えぇぇぇ!!じゃあ…みんな義理で…」
と俺が全力で絶望していたところ、
「あたしのチョコは義理じゃないよ?」
というフォローとも冗談とも本気ともとれるような事をナノカが言う。
「そういう事を言うからキミカが勘違いすんのよ」
とユウカはナノカの肩をぽんと軽く殴る。
まてよ、あの下駄箱にあった大量のチョコも全部義理?なんの義理なんだよ…。俺はそんなに友達は多くないはずだけどなー。と、俺はバッグに詰めてあるチョコを一つ一つ出してみて、下駄箱に突っ込まれた原因なんぞを探ってみようとする。
「あんた…何その大量のチョコは…」
俺が貰ったチョコの量を見て軽く絶望しているユウカ。ふはははははは!泣け、叫べ、喚け!お前より友達が多いぞ私は!!!見ろよこの量を!俺の知らないところで知らないうちにこんなに沢山友達が増えて…。
梱包の一つをバリバリと開けてみる。
そこにはチョコが入っていると思わしき包みと小さな紙が入っている。手紙のようだった。その内容を俺は読み上げる。
「『キミカさん、ずっと好きでした』」
ユウカは驚きを隠せないようだ。普段は怒る以外の感情は表に出さないが、この時ばかりは
「え、マジで…?」
と言う。
「『2年A組、田中一郎』」
誰だよ田中一郎って!ってか男かよ!
「ちょっとあんたバレンタインの意味は知ってるの?女の子が好きな男の子にチョコをプレゼントするのがベースよ。義理でプレゼントするにしても男の子が女の子にチョコをあげるなんて」
ズーンって擬声語がまさにぴったりあうような心境でいる時にそこに追い打ちを掛けるようにユウカが言う。まさかこれ以外の奴も…。
他の梱包も開いてみる。
2年C組、鈴木義久、2年D組、浅岡智樹…おーい!全部男からかよ!!
「キミカっちもってモテだね!」と傷口に塩を練り込むようにさらに重ねてナノカの精神攻撃が降り掛かる。
「うぅ…男にモテても嬉しくないよ…」
「いや、そこは素直に喜びなさいよ…」とユウカが突っ込んだ。