30 リア充記念日 1

2月も中頃、とある寒い冬の平日。その平日の登校ではちょっとしたピリピリとしたムードが明らかに男達の周囲に蔓延していた。まるでその日初めて学校に登校したかのような、新入生かのようにキョロキョロとしたりして、それでいてそれを指摘されれば「なんだよ?なんでもねーよ!」的な、俺は関係ありませんよ、気にしていませんよ、みたいなやり取りが続く。
今日は何か特別な日だったっけ…?
などと俺は思いながらも下駄箱まで足を運ぶと、寒さの中で白い息を手袋に吹きかけながら、音無芽衣の姿が目に入った。
「お姉さま!!」
俺が声を掛けるよりも先に気づいたメイは公衆の面前であることにも関わらず俺を抱きしめてきた。そして同じ身長なので少し屈んでから俺のおっぱいに顔を埋めながら「おねぇーさま!!待っていましたの!この日を、この瞬間を!!」とか叫ぶ。
「何、何、どうしたんだよ…」
と俺はメイの頭を掴んで押して離す。
「今日は何の日かご存知ですか!おねぇーさま!!」
「えーっと…何の日だっけ?大安?」
「んもー!お姉さまったら!バレンタインデーですわ!バ・レ・ン・タ・イ・ン・デ・ー!日頃お世話になっている人やお世話になっていない人にも、そして何より愛している人にチョコと愛で気持ちを示す日ですわ!!」
「あー…そう、そんな日があったねぇ(白目」
「ちょっと、お姉さまどうしてそんなに白目を剥くんですの」
どうしてって言われても。俺は生まれてこのかたバレンタインデーのチョコなんて親か近所の人にしか貰ったことがない系の人だからさ。バレンタインデーの日の学校なんかは苦痛でしょうがなかったよ。貰える人と貰えない人が出る日。つまりはモテる人とモテない人が判る日。こういう日に「俺には関係ないんだ。バレンタインデーなんて…」って思う事がどれほど苦痛か。わかるのか!お前にはわかるのか!
「お、おねえさま?顔が怖いですわ…」
「お菓子メーカーはこの世のモテない男性達の恨みを買って、メーカーに務めた人全員が不幸な死に方をすればいいのにね…」
「もー!お姉さま、また変な事を。わたくし、今朝は真っ先にお姉さまに渡そうと思って待っていましたのよ!」
渡す?何を?
メイはバッグの中から真っ赤なスカーフのような布で巻かれ、上をピンクのリボンで梱包されたそのプレゼント風の物体を俺に渡したのだ。
「く、くれるの?!」
思わず驚いてしまった。
「もちろんですわ!お姉さまにプレゼントする以外にこのチョコの役目に何があるのですの!!」
「あ、ありがとう…」
「お姉さまのお返しをお待ちしておりますわ…何でもいいですの。ほら、例えば、身体とか…」
身体?引越しの手伝いでもさせられるのかな?
「と、とりあえず、今すぐにでも抱きしめてもらえますか?」
「あ、うん」
俺はメイを抱きしめながら、今日は生まれてはじめてバレンタインデーを過ごせた事を幸せに思う瞬間かもしれないぞ!とか考えていた。