29 如月流心眼道と金剛流居合術 8

居合術とは抜刀から納刀までの一連の動きを一つの攻撃・防御としている」とアスマは言いながら腰に添えた木刀を抜いて斬り、再び納める、という動作を俺に解りやすくスローでやってみせた。そして、「抜いて納めるまでの動きは相手に見抜かれないように高速にする」と言いながら、アスマは今度は再び木刀を抜いて斬る動作をする。右下から左上へ、左下から右上へ。そして素早く納刀する。
「動きは刀のみの『一の動』、刀と身体を合わせた『二の動』、刀と鞘を合わせた『三の動』がある」
手首のみで刀を動かして相手を斬る。多分最初のそれが一の動だ。
そして次に刀で斬りながら身体を前進させて半回転させたのち、鞘に納めるという動き。これが二の動かな。
最後にアスマがやったのは鞘を持ち替えるという特殊な動きだ。右の腰にあるはずの鞘を背中に回したあと、そこから刀を抜く。
「居合の基本は相手に刀を見られない事。つまり、斬るターゲットが間合いに入っている時にしか刀を抜かず、そしてターゲットが刀を認識する前に斬り、別のターゲットが刀を認識する前に鞘に納める」
「べ、別のターゲット…」
「常に一対一じゃないからね」
アスマは腰を低く構えると、低姿勢のまま足を使って身体を反転させた。その動きは波のように上半身を前方へと動かす。けど、最後に片足がふらついて地面に膝をついた。
「くっ…」
「だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫。こんな身体じゃ無かったら君にちゃんとしたフォームを見せれるんだけどね。情けない」
「いえ…そんな事は…」
それから俺はアスマ師匠の元、金剛流居合術を学んだ。同時に如月流心眼道も学ぶ。この二つはまったく異なるものじゃない。どうやら流れるように動く如月流心眼道の中に金剛流居合術の動きがあるととてもマッチするようだ。体術と剣術がこれほど相性がいいのはもともと同じ武術だからかもしれない。つまり、効率よく無駄な動き無しに身体を動かし、攻撃と防御を同時に行う事が出来る動きとは自然と同じものになるのではないかっていう事だ。そして、この二つの武術を同時に習得しようとしているからか、俺はすんなりとアスマ師匠のレッスンを身体に染み込ませていくことが出来た。