29 如月流心眼道と金剛流居合術 6

心眼道っていう武術に興味を持った俺は、その一方で他の武術にも興味を持っていた。俺が戦闘で使えそうなものは手足を使ったもの以外に、刀を使ったものがあるからだ。
というわけで剣道場に立ち寄って俺はその様子を窓から見ていた。
だけど、やっぱり剣道っていうのはアレだね。侍のように刀を両手で持って上に掲げたようなフォームを取る。それとはちょっと違ったっけな。あの『イチ』と呼ばれていた侍野郎の持ち方は…こう…。
と俺はいつの間にか壁に立てかけてあったバンブーブレードを手に取って『イチ』が持っていた持ち方をしてみる。そう。奴は刀を逆手に持っている。こんな感じで…。
「剣道に興味があるのかい?」
突然背後から声がするからびっくりした。気配を読めるはずなのに俺の背後を取るとは…誰?
「え?!は、はぁ」
振り向くとそこに一人の男が居る。
剣道着?に身を包んでいる。ひょろっと背は高く痩せていて、青白い肌、長髪、細い顔の男。なんていうか…スポーツをするような人には見えないので剣道着が凄く不自然に見えるな。しかもその人、足を怪我しているみたいだ。松葉杖でようやく立てているような感じ。
「剣道っていうわけじゃないんですけど…」
と俺は持っていたバンブーブレードを壁に立てかけた。
「今も持ち方は?」
確かに剣道じゃ逆さに持つような持ち方しないからね。なにそれ?って言いたくもなるよね。
「あー。えっと、知り合いにあたしに暴力を振るう男がいて、その人の刀の持ち方がそれなんですよね…」
「暴力…それは警察に相談したほうがいいかもしれないね」
ですよねー…。
「君はその暴力を振るう男に剣道で立ち向かおうとしてるの?」
お。俺の気持ちが伝わったのかな。
「うーん。剣道が…っていうわけじゃないけど、そういう刀の持ち方をしてる人に勝つには…って思って」などと言いながら、俺は自分で立てかけたバンブーブレードをもう一度手に持つと『イチ』の動きを真似てみた。こんな感じで奴は俺を切ってきたな。腰を低くして、抜刀して、そして納刀。この一連の動作が滅茶苦茶速かったっけ。
というのをやってみせたら、その男は滅茶苦茶険しい顔で俺を見ている。
「?」
俺が首を傾げていると男は、
「その動きをどこで?」
と聞く。
「えーっと…どこっていうと…日本海側のほうの…」
「君に暴力を振るう男はその持ち方で斬るのか」
「あ、はい。そうですね」
「それに勝ちたいと」
「うんうん、そうです!」
「今、練習で道場を使ってるから終わってから来てくれるかな。いや、君に時間があればでいいよ」
え?何か教えてくれるのか?剣道…じゃないっぽいな。
「はい!是非とも!」
俺は二つ返事で了承した。