29 如月流心眼道と金剛流居合術 4

メタボ先輩の名前は「海堂篤史(かいどうあつし)」というらしい。
空手部のキャプテン。そして如月流心眼道の継承者だ。最初、親に道場を継いでくれと言われたが断ったらしい。それから親が死に、金に苦労した時、自分の身に起きたこと、起きること、周囲のこと、色々と見ていくうちに混乱した自分の気持ちを落ち着けようとして武道の道に入ったらしい。海堂先輩にとっては武道とは心を鍛えるものだという認識があったのだろう。
次の日の放課後、俺は再び空手部の練習場に訪れて、練習が終わるのを待った。キャプテンということだったけど、空手はからきしダメ。空手の試合で心眼道を使うわけにもいかず、今の海堂先輩はただのムードメイカーになっていた。でも本人もそれが楽しいのだからいいのかな。
部活は終わった。
それからしばらくして部員や顧問が居なくなった練習場で俺と先輩は向きあっている。
「如月流心眼道…心眼道とは一言でいうのなら、力の作用を利用した武術でござる」
「ふむふむ」
「力とは、力の強さ、向き、大きさ、種類を指すのでござる」
「ほうほう」
「心眼道とは物体を眼に見えるそのものではなく、そこに働く『力』を見、攻撃と防御に利用するものでござる」
先輩は右手でグーを作り、左手でパーを作った。そしてそれをぶつける。パーにグーが包み込まれるようにぶつかる。その様子を俺に向かって「例えば、垂直に動く力であるならば、このように垂直に当たると最も攻撃力が増すのでござる」と言う。
なるほど、ただパーにグーをぶつけているだけの様子だけど、実際その裏側ではそういった力が働いているわけだよね。
「では、この壁が(パーのほうの手を見せて)斜めになるとどうでござろうか?」
斜めになると…さっきよりもグーの力は弱まるね。角度がキツイほど別方向に力が散らかる。
「さっきよりもグーの攻撃力は弱くなる…?」
「左様でござる」と、先輩はパーの手を斜めにして、さっきと同じ様にグーの手をそれにぶつける。さっきはパーに対して直撃だったグーの手は、一度パーに当たったけど横へと反れて行く。「これは例えでござる。力とは力の強さ、向き、大きさ、種類をあらわし、それには最も強く働く『点』があるのでござる。その『点』がズレてしまうと本来の強さがでなくなるのでござる」
「なるほど…」