29 如月流心眼道と金剛流居合術 1

その日俺は久しぶりに水泳部の見物…いや、目の疲れを癒しに女子高生達の泳ぐ様を見に行くことにした。何故か俺は途中で柔道部だか空手部だかの練習場の窓から覗いている事態となった。ところで俺はホモではない。そりゃはたからみたらカッコイイ先輩の姿を見るために窓からちょっこりと覗いている女子高生に見えるだろう。しかし俺はホモではないので理由は別にある。
俺が見たのは休憩中の風景だった。
朗らかな表情に囲まれる中で一人の身体がメタボってる高校生がいて、そいつは非常に顔が朗らかで目が細くとても武道の心得があるようには思えない。そいつに殴りかかろうとしている連中(4、5人)をいとも簡単に地面へと転がしているのだ。もちろん本気で殴りかかろうとしてるわけじゃない。休憩中のほんの余興みたいなものだろうと思う。けれど、武道の経験がある人が数人殴りかかって交わされるのはある意味凄い事だと思う。
その光景を言葉で言い表すのなら「風に向かって殴りかかって自ら地面に転がっている」ような感じだ。風に殴りかかる自体無意味な事なのだけど、殴るという行為が無意味に思えるほど、そのメタボな人の動きは可憐だった。
どうやらそれは練習終了後の余興のようなものだったらしい。
部員たちはぞろぞろと更衣室へと向かった。
その朗らかな評定のメタボっている高校生と、顧問の先生だけが残った。
進路の話でもするのかな?
などと思っていると、二人はまるで試合をするみたいに距離を置いてから一礼する。そして戦闘フォームを構えた。不思議な事に構えたのは顧問の先生のほうだけ。メタボの人は自然に、ただ立っているだけの様だ。
次の瞬間。
顧問の先生は空手のそれのフォームのまま、メタボな人に蹴りかかる。綺麗にキマッたと思いきや、メタボのほうはくるりと身体を回転させると一気に顧問の先生の懐へと身体を移動させる。すかさず顧問は肘鉄を入れようとするも、メタボはその動きを完全に読んでいたようで、肘鉄を回避、そして顧問の肘鉄が入るベクトルに身体を平行にさせると、まるでそのベクトルを横から強引にずらすようにして、結局顧問は空に向かって攻撃をするような形になり、ついでメタボのベクトルずらしでフォームを崩されて転げた。
凄い。
まるでメタボが俳優よろしく映画のシーンで派手な殺陣(たて)をやって、事前に打ち合わせたかのように、顧問のほうが転げた。かのようだ。つまり、それぐらい不自然に転げた。
だが顧問はにやけながら首を傾げて、
「相変わらず強いのぅ」
などと言っている。
そんな光景を見ながら俺がまず何を考えたかというと…。
この技を俺も使いこなせないかな?という事だった。