28 正義の意味は 3

司令室を出てからケイスケと一緒に家に帰る。
途中で俺の頭のなかにはぐるぐると色々な記憶が回っていた。
マダオに説明を受けた内容も、不知火との戦闘も。そして戦闘中に忍者野郎が放った言葉…『貴様の正義なんぞここでは戯言だ』。
戯言…。
あの不知火というテログループの連中も、この問題がどうやったら誰もがみんな納得の行く解決に導かれるかを考えたのかな。その上で、俺がやっているように目の前にある悪を倒すという行為も解決策の中に上がったのかもしれない。けれどそれじゃ何も意味が無い事を知って、仕方無しにあの手段をとっているのかな。
『戯言』にはそんな意味があるのかも知れない。
奴らからしたら俺の行為は、例えば『街で悪さをする不良達をぶん殴ってあたかも正義を気取っている』ような低レベルで頭の悪い行為に見えたのかもしれない。ぶん殴っても悪さを続ける奴はいるかも知れないし、そもそも『悪さをする』という結果を招くまでの過程に問題があるのに結果だけを叩くのはどうかとか。
「ケイスケ…」
「な、なんですかぉ?」
しんと静まり返った車内の中で突然俺が話し掛けたからか、ケイスケはそのムードを変に勘違いして顔を赤くしている…。いやいや…そういう話じゃないんだよ。
「正義の意味がわかんなくなったよ」
「…」
「強くなってあいつらを倒したとして、それで誰かが救われたとして、一方で誰かが傷つく事とかあるのかな」
しばらくの無言。
ケイスケはどのタイミングで言おうかと迷っていたような気もする。そしてふと口を開けた。
「…ボクがヒーローに憧れたのは、軍にも警察にも、正義を実行できるだけの力が…いや、そういう立場が無かったからですぉ」
「?」
「だから軍を抜けて研究に没頭してドロイドバスターを作ったにぃ。軍でも警察でもなく、政府でもない。そしてめちゃくちゃ強い存在。それをヒーローとボクは呼んでるんだにぃ。正義を貫いてるからじゃないんだにゃん」
それは、単純に強いっていうだけの存在だな…。
それだったら他にも色々あるじゃん。
「つまり…あたしはどうすれば?」
「生物には多様性っていう機能が備わってて、一つの有効な手段があったとしてもそれが永遠に有効ではないですにぃ。常に状況は変化してるからそれに対応する為に多様性があるんですにゃん」
「うん」
「だから、ある時は正義であった事も、ある時は悪になるのですにぃ…でもそれを実行するだけの力がなければ、正義も悪も意味が無いんですにゃん…」
「そっか…そうだね」
ケイスケは俺が善や悪とかが何かよくわからない、っていう事情を読み取っていたみたいだ。きっとケイスケ自身も答えが見つかってないんだと思う。だから答えなんてない、っていう答えを導き出したんだろう。ケイスケみたいな科学者はそういう回答をするってどっかで読んだことがあるからさ。答えなんてない、だから答えをつくる。人は宇宙の法則を導き出したけど、それだけじゃなくてそこから技術として法則を活かしてきた。これが答えを作ることだったはずだ。
「答えになっていましたかにゃん?」
「うん。なんとなく、わかった気がする」
俺は車の窓を開けて冷たい空気を顔に浴びた。
なんとなくだけどわかった気がする。
今はまだなんとなくだけど。