28 正義の意味は 2

マダオマダオのくせにクソ面倒臭そうに、「いいか、私は歴史の先生じゃないから、復習は別のところでやるんだ。何度もいわんぞ」という。
「あーはいはい」
「日本は…いや、アメリカ、日本、インド、台湾、インドネシアにマレーシア、それからロシア、中国に朝鮮と…それらの間に数十年前に大規模な戦争が起きた」
「それぐらいは知ってるよ…あぁ、オーストラリアが抜けてるじゃん」
「…まぁ、細かい事はいい。その戦争のあと中国はいくつもの国に分裂・合体を繰り返した。そもそも中国は元は多民族国家だったから予測されていた事だったがな。国が荒れれば難民が出る。難民が向かうのは豊かな国…つまり一番近いところで日本だな。最初こそ日本も周辺各国も難民の受け入れには前向きだったが、その難民達が国内で悪さを働き始めた。何も持たずに日本に来たのだから、生きていく為に持たざる者が持つ者から奪ってやろうと考えるのは不思議な事ではない」
「そんな事があったのかぁ…」
マダオは「おいおい、待ってくれよ」ってのが今にも口から溢れそうな感じで、それを堪えながら、「…うむ、まぁ、あったのだ。で、政府は難民をこれ以上日本に上陸させないよう、政策を立てたのだが…」と言う。
「だが?」
「難民も日本で財を築き始めると権力を持ってくる。政治にも加担するようになる。そうなってくるとだな、戦争を仕掛けてきた国の人間が日本へやってきて、我が物顔で街を歩いたり、ついには政治にまで口を出してくるとな、愛国心溢れる若者達の怒りを買う」
「あぁ、それで…」
「そうだな。後は考えなくてもわかるだろうが、日本産テロリストの完成だ。不知火は大陸…中国へ拠点を設けて兵器を作り、それを用いて大陸内で殺戮を繰り返している。そもそもの理由は日本に難民・移民を近付けさせないようにしているだけだ」
あいつらが難民船を狙ってくる理由もわかった。
けれども、人の命を奪ってもいいものなのかな。それが信念だとしても、日本を守りたいとしても…。いや、ゼロかイチかの話じゃないけどさ、ちょっと派手にやり過ぎているような気もする。そうだよ、あそこで海上保安庁の船に拿捕されたら不法入国で本国へ強制送還じゃないか。という疑問をマダオに向けたら、
「彼らの言い分だから真意はわからないが『全然足りてない』という事だ」
「何が?」
不法入国者の数に対してそれを取り締まる国境警備の船の数が足りてないのだ」
「足ればいいんじゃないの?」
「…」
俺は何か変な事を言ったのかな?
ミサトさんが口を挟む。
「さっきもマダオさんが言ったように巡視艇の数を増やすと困る人がいるのよ。日本で財を築いた難民のお仲間さん達は日本に強硬姿勢を取られると困るの。お仲間が日本に来れないから」
「ん〜…」
「今、結構私が傷つくような事を言われたような気がするな…」というマダオに対して「細かい事は気にしない気にしない〜」とアップテンポなミサトさん
俺は腕組をしながら、
「難しい問題だね…」
とつぶやくように言った。
「多くの政治家や事情をしる日本人は同じ台詞を言う。『難しい問題だね』と。そこで終わりだ。もうそれ以上は追求しない。『難しい問題』だから誰か頭のいい人がなんとかするだろうとサジを投げる。それでも困っている人もいるだろう。犯罪に巻き込まれて殺された日本人の遺族はどうだろうか。根を絶ってやろうとして不知火と同じ事を考えるのではないか?」
「それは…」
「まぁ、一般人でしかも高校生の君にそのような疑問を投げかけても仕方のないことだがな。我々軍人も、海上保安庁の隊員達も『現場』で動く人間はこの問題に直面していつも答えを求めてしまう。だが政治家どもは我々をあくまでも道具としてしかみない。それは正しいことだが、考えるはずの政治家達もサジを投げているのが現実だ」