27 日本海の死闘 8

『キミカちゃん!』
今度はケイスケの声じゃん…俺は今忙しいんだよ…。
侍野郎は相変わらず執拗に俺を狙ってくる。見えてないんだ。奴の目には俺の腕を切り落としたという勝利などはない。ただ目の前にある物体を切って動かなくさせる、ただそれだけの目的だけがあるようだ。その目的に向かって感情を持ち合わせず突き進んでくる。そう、ロボットみたいに。
『早く逃げてくださいですぉ…』
通信の向こうは雑音だったが泣いているような声が聞こえた。
『ケイスケ…』
俺には一つ聞きたい事があったんだ。
『なんですかぉ?』
奴の動きを見ながら、回避しながら通信するのはちょっと辛いな。でも、聞きたい事があるんだ。一つだけ。
『あんたの想像してたヒーローは負けたりするのかな…?』
俺がまだ質問している最中だったのに、もう答えが返ってきた。
『ヒーローは負けないにゃん!!』
そうだよな。そう答えると思ったよ。
『あはは、さすがに今回はキツイや。マジでさ…。腕も切られたし』
奴の刀を避けるためになるべく障害物を沢山出すようにしている。俺の正面に氷の壁をいくつも。そして移動。奴が氷の壁を切り刻む。次の氷の壁を築く…。それの繰り返しで勝機を願った。
『キミカちゃんは…一人で戦っているのかにぃ…』
『今は、そうだね』
『それは違うと思いますぉ』
『なんで?』
『その武器も、キミカちゃんの身体も、ボクが作った…だから、ボクも戦っているにゃん』
『そっか…そうだね』
そうだな。こいつも戦ってるんだ。こいつの装備がなけりゃ俺は一般人だからな。それに、死んでた。こいつのお陰で俺は死から免れて今ここにいるんだ。
ケイスケは自分の高ぶっている気持ちを落ち着かせるときのあのテンポで、話を続けた。
『日本は、資源も無くて人も少なくて、アメリカの助けを借りなきゃ戦争に負けるって言われてた…でも、戦闘する事じゃなく、モノを作ることに勝機を見出したにゃん…。戦闘ドロイドに改良を重ねて戦場に送って、ついには、国を、大切な人達を守ったにゃん…。ボクも、その日本人の一人だにゃん。だから、今負けても、それは負けじゃないですぉ…本当に負けるって事は…「諦めてしまう事」ですぉ…戦う事を、造る事を、生きる事を』
そうだよな。俺は歴史の成績はよくないから今の日本がどうなって今の日本となったのか、そんな成り立ちは知らない。でも街にはドロイドが溢れてるし、食べる事に苦労しないのは労働者としてロボットがいてくれてるからだ。少なくとも日本では人は生きていく権利を得ている。
『生きていれば…勝機は来る…ってことか』
『そうですぉ!!生きて返って欲しいにゃん!あと、腕もくっつけたら自動的に回復するにゃん。ドロイドバスターに変身した時のみだけど』
『マジで?!』
俺の腕…あの氷の上に転がっている、今にも雪に埋もれそうな腕を拾っておかないと。しかし、このクソ侍の攻撃を腕一本で避けてる俺としては、褒めてもらいたいぐらいにかなりうまくやってると思わないかな。これ以上どうすれば…。ここで忍者野郎が戻ってきたらマジで終わりだ。続きは映画館でって次元じゃない終わりだ。
と、その時、雪の中を再びライトが照らしてくる。巡視艇のライト?そうか、俺を援護してるのか?速射砲とファランクスが侍野郎に降り注ぐ。だがこのクソ侍はさっそくそれに気付いたのか刀ではじき飛ばしてくる。
今がチャンス。
俺は奴の足元にグラビティコントロールを食らわして奴を地面の『氷ごと』上に持ち上げた。こうすれば速射砲に狙われやすくなるじゃん。どうせすぐに俺に斬りかかってくるだろう。けどもその『すぐ』の間に俺はさっき腕が落ちた地点に駆けつけて、拾い上げた上で切断面に近づける。
「おお…ま、マジかよ」
青白い光とともに、俺の腕は磁石のようにくっついてしばらく血が噴き出た、と思ったら腕が再接続された。手のひらを広げたり包んだりして神経も繋がってるのを確認した。若干さっきは痛かったけど今は全然痛みがない。
『キミカちゃん、巡視艇が海に落ちた海上保安隊の人を救出したら退却だにゃん。はやく船のほうに戻って!』
戦略的撤退だ。