27 日本海の死闘 3

「なんなんだよ…これ…」
俺が現地に駆けつけて開口一番で放ったセリフはそれだった。
海面が凍ってる。その凍った上に雪が降り積もっていて、南極だか北極だかの分厚い流氷にいるようだ。その氷をかき分けて巡視艇が不審船に近づこうとしている。不審船に乗っている難民達は船から降りて氷の上を走り、さも巡視艇がゴールかのように、そこへと逃げこもうとしている。
そうだ、救助しているんだ。
もちろん、日本の海の国境へと近づいた事は問題かもしれない。彼らを捕まえるように指示されているかもしれない。だけれど、俺の目に映ったのは難民を救助しようとしている巡視艇の隊員たちの姿だった。
何人かが海面上空に浮かんでいる俺の姿を見つけて手を降っている。何か言っている。波の音と銃声にかき消されて聞こえない。銃声…そうだ…。
俺は銃声のする方向を見る。
巡視艇からファランクスを水平撃ちで狙いを定めているのが見える。その狙いを定めた先には水飛沫と雪を空中に巻き上げながら進む『何か』がいる。あれが…アンドロイド?
そいつが歩いたところから水面は凍っているのだ。そいつの足は特殊な冷気を放っているのか?専門じゃないからよくわかんないけど、ここらを凍らした犯人はあの走り回っている奴だ。
俺は武器リストからショックカノンを取り出す。
そして奴が進んでいるその先を狙う。
その時、俺は全身の感覚がある一方方向からの何かを警戒しているのを察知した。視野に捉えたわけでもなく、音を聞いたわけでもない。風圧があったわけでもない。ただ、背筋にピリピリとする緊張のような恐怖のような…。いわゆる『殺気』。その凄まじい殺気の塊がショックカノンで狙いを定めていた俺の背後に近づいてきた。
もう一匹いる?!
俺はショックカノンを仕舞うまもなく、武器リストからグラビティブレードを引っ張り出して、その攻撃を受け止めた。
こ、こいつ…!!
こんな海の上、もちろん、氷の上だが、おっさんがいる。どう表現したらいいだろうか。作務衣(さむえ)の格好で、足には草履を履き、そして手には鞘らしきものを持っている。そいつが俺に攻撃を仕掛けてきた。けれども俺はそのおっさんがどんな武器で攻撃を仕掛けてきたのか見ていない。あくまで俺のグラビティブレードにぶち当たった感触だけで推測すると、そのおっさんは刀で斬ってきたのだ。見えない刀で。
低姿勢のまま、おっさんの動きは明らかに刀を振り回すフォームだ。それも時代劇のような両手で刀を持って上から下へと大胆に振り下ろすものとは違う。忍者が忍刀を持つような感じで逆手で刀を持っている。いや、正確には鞘を持っている。
来る!
おっさんは足を軸にして踏み込むと身体を反転させ、俺の刀に一撃が入った。だがもう一撃が入るのは刀ではなく、俺のバリアだった。
太刀筋が見えた。
このおっさん、刀を抜いてから鞘に仕舞うまでの間が鉄砲の弾並に速いぞ!弾丸を見抜ける俺の目でようやく太刀筋が見えた。それでも次の攻撃がどう来るかはほぼ予測だ。
おっさんは顔や頭に雪が積もっていて表情が全く読めない。けれど、俺がこれだけ常人離れした速さの太刀筋を避けたり交えたりするのをみても顔色一つ変えない。ふつう、「この太刀筋が読めるとは貴様只者ではないな」とか言いそうなものなのに。
ダメだ。
もう少しでバリアが切れる。
俺は地面に向かってグラビティコントロールを発動させて、氷の塊を持ち上げた。その隙に空へと逃げる。あっというまにその氷の障壁がおっさんの刀によってバラバラに分解される。
「もう一匹は?!」
さっきまで走り回っていたもう一匹のアンドロイドを俺は警戒した。
奴の姿がない?