25 アンドロイドはボーカロイドの夢を見るか 5

女優さんやらがお化粧をする部屋だ。
本来なら女性しか入ってきちゃいけないと思うんだけど、初音ミンクの衣装を俺に手渡したケイスケはそのまま部屋を出て行く事もなく、じっと俺が次に何をするのかを見守っている。次に俺がする事といえば着替える事か、ケイスケを蹴り飛ばして部屋から追い出す事だけど、
「なんか毎回ツッコミ入れるの面倒臭いからいいや…」
と言って、俺はケイスケを部屋から追い出すような事はせずに淡々とドロイドバスターとしてのコスチュームを脱ぎ捨てた。
「よッ!待ってました!」
などとケイスケが言う。こいつ、俺に蹴らせたいのか…?まぁ、俺が中身も女だったら迷わず蹴り飛ばしているところだけれど、あいにく俺は中身が男なので男に着替えるシーンを見られていたとしてもそれほど恥ずかしくない。むしろ女に見られているとちょっと恥ずかしい。
「これ、初めて脱いだけど、結構セクシーな戦闘服なんだね…」という俺の感想を言わせてもらおう。戦闘服の下にはちゃんとセクシーな下着があるというのがまた…。で、「さて、これを着ればいいんだよね」と俺が初音ミンクのコスチュームを手にとったら、
「ダメですぉ!そのセクシー下着は脱いで初音ミンク下着をつけなきゃですにゃん!」
「はぁぁぁぁあい?」
よくみると初音ミンクコスの中に下着もある。地味なレースのホワイトブラにしましまのパンティー…。あーはいはい。スカートがめくれた時にブラックのセクシー下着が出てきたらファンの男達がどん引きって奴ですね。
「はぁ…」
と、俺はため息をついてブラのホックに手を伸ばす。わざわざ乳首を隠すようなマネはしない。大胆にぽいっとブラを脱ぐと、まるでハイエナのようにケイスケは俺の脱ぎたて下着(ブラ)を拾って頬にスリスリした。さすがに俺もそこまで寛容な心の持ち主じゃない。グラビティブレードを引っ張り出すと、ケイスケの頸動脈付近にそれをそっと沿わせて、
「ヘイ・ユー」と一言。
目が点になったケイスケは静かにブラをテーブルに置く。「ここに置きましたよ」って言いたそうな、そういうところまできちんと主張しないとケイスケは殺されてしまう的な雰囲気が二人の間に漂う。
パンティーのほうも脱いでテーブルに置く。ケイスケがとろうとしたので今度はショックカノンを取り出してケイスケの腕に狙いをつける。
「ドォント・ムーブ」
「オ…オーケー…」
ケイスケは反射神経でパンツをとろうとしてるのか。今、普通のデブじゃ考えられないぐらいの高速な動きで俺の脱ぎたてパンティーをとろうとしたぞ。
それから俺は初音ミンクのコスチュームを下着から順に、途中で間違えそうになりながらも着替えた。大鏡の前には俺の初音ミンクコスプレをした姿がある。だが、まだドロイドバスターとしての格好が色濃く出てて、とてもコスプレって感じですらない。俺の髪の色は漆黒に深い蒼がちらちらと見える色。目の色はこれまた同じく漆黒にブルーが混ざる色。対して初音ミンクは真っ青な髪と緑色の目。
と、ここでメイクさん登場。
俺を化粧台の前に座らせられると、メイクさんが俺の背後から初音ミンクのトレードマークとも言えるあのツインテールのテールの部分だけ持ってやってきた。
「このエクステを繋げて、それから髪の色をエクステに合わせますね」
「はーい」
メイクのテクニックでエクステなるものを俺の髪にくっつけて初音ミンクのトレードマークが再現される。それからスプレーとライトみたいなのを交互に当てて、色を調整していくと、俺の髪の色は初音ミンクの髪に近づいていく。と言ってもあのアニメカラーなものじゃなくて、現実っぽく再現されたアンドロイドの初音ミンク・ヘアカラーである。
仕上げに目には緑色のコンタクトレンズが入れられて、俺はアンドロイドの初音ミンクとほぼ同じになった。
「すごいわ…。本物の初音ミンクよりも可愛いかも?あなた、本当に人間?完璧なプロポーションじゃないの」
「まぁ、アニオタがデザインしたからね、この身体…(白目」
「?」
鏡の前で俺がポーズをとっているのをケイスケが必死になってカメラに収めている。その脇で本物の初音ミンクアンドロイドがやってきて、俺の隣に寄ってくる。並ぶと若干、顔だとか背丈、及び胸の大きさが違うけども、ステージの上と客席との間の距離を考えるとあまり違和感はないだろう。
かくして、俺はなんちゃって初音ミンクに変身する事に成功した。