21 タイガー・ランペイジ 5

そろそろ視認できる範囲にタイガー戦車とスカーレットが現れる頃だった。
周囲には警察や軍が送り込んだと思われるドロイドの残骸が転がっている。そしてドロイドは霧雨AIに対して座行情報を送信したのだろう、霧雨AIからの艦砲射撃の跡もいくつかある。だが、呆気無くそれらが回避されているのは未だにタイガー戦車とスカーレットが健在である事からわかる。
転がっている一般車両の脇から覗く。
既にスカーレットの部下は消えている。連中は地下から現れた、って言ってたな…っていうことは、地下に逃げたわけか…。
ん?やばい!
タイガーとスカーレットはほぼ同時に俺のほうを向いた。かなり高性能なセンサーみたいなもので検知してるのか?戦車の砲塔は俺のほうに方向修正後、砲弾を発射した。真っ赤な何かが俺に向かって飛んで来る。
「ふんッ!」
俺は正面に向かって新装備のグラビティディフレクターを放出した。
砲弾は俺の手前でバリアに命中して炸裂した。そして周囲の建物に爆風と炎が巻き起こる。だが、俺の手前には見えない壁が発生して俺を避けるように脇へと抜けた。
凄まじい…。
だが、その爆風の吹き返しの中から黒い塊がまた俺に飛んでくる。
「しゃーんなろぅッ!!」
スカーレットの一撃が俺の目前にある。腕をクロスしてそれを防ぐ。さすがに連続でディフレクターを作動出来ない。スカーレットの一撃は俺のプラズマシールドをブチ破りながら俺そのものも吹き飛ばした。こいつ…前より強くなっている!!
続けざまに吹き飛ばされている最中の俺にスカーレットの蹴り。それはもうバリアを貫通してしまった。俺の身体に思いっきり奴の蹴りが命中して今度はビルの中に突っ込む。
「いてて…」
俺が起き上がるとショーウィンドウを突き破ったのか、俺の身体には何かのドレスが、頭には王冠みたいなのが…。
「ちぃ…舐めやがっ…やばッ」
戦車砲塔がこちらを向くのを察知した。正面にディフレクターを作動させた。バリアで辛うじて直撃は防げたけど、爆風は回りこんで周囲の物を吹き飛ばしながら俺の身体に命中した。ここはダメだ。周囲に障害物が多くて巻き込まれてやられる。
店の正面にはスカーレットがいる。こちらの様子を見ているっぽい。そのまま入ってきたら俺が隙を伺って狙ってくるのを警戒しているのか。だが、俺が何もしてこないのを見てこちらにゆっくりと近づいてくる。
通信で艦砲射撃の要請をするか。砲撃を食らっている間のどさくさに紛れて一旦退避してバリアを復活させないとまずい。
俺は視線をスカーレットの背後あたりに定めた。それから頭の中で艦砲射撃の要請をする。視界にマーキングが現れて、射撃ポイントが確定したように点滅した。なるほど、これでこの位置に爆風が起きるわけだな。
ゴゥン!という遠くで雷でもなるような音が聞こえた。きたきたきた!着弾まで4、3、2、1…。
正面が真っ赤になった。
空気が無くなったのだろうか音がしない!だが、明らかに爆風がスカーレットの背後から襲いかかって、奴のプラズマフィールドは剥ぎとっているのが確認できる。
その爆風が俺に迫ろうとしている。スカーレットと一緒に。そこで俺はもう一度ディフレクターを作動させ、爆風をバリアで弾くと、飛んでくるスカーレットの顔面に向かってパンチを叩き込む。スカーレットにとってはまさにクロスラリアット状態だ。
俺の重い一撃がスカーレットの顔にめり込むのがスローモーションでわかった。一瞬「ブッ」って音がしたのだ。これは顔にパンチがめり込むときの音って奴だな。
そのまま「さっきのお返し」といわんばかりにスカーレットの身体は後方へと吹き飛んだ。
今がチャンスだ。