20 キミカ・ファンクラブ 5

それから俺とナノカは思う存分にユウカから逃げまわった。凄い形相で追い掛け回してくる。けれど俺もナノカも水泳のセンスがあるのか捕まることはなかった。っていうか、泳いで追い掛けても捕まえることができないのだ。魚じゃないんだからさ。
「はぁ、はぁ…こ、殺す」
疲れ果てた顔でそう言いながらプールサイドにゴロンと倒れこむユウカ。その様子を見て息ができないぐらいに笑い転げているナノカ。そんな3人の前に一体どこに行ってたのか、ナツコが姿を現した。タブレットの端末を持っている。それを俺とユウカに見せる。
「見つけましたわ」
「え?」「何を?」
俺とユウカが聞く。
「何って…。おびき寄せる話でしたわよね?ほら、カメラ小僧がわたくしの仕掛けた高感度センサーに引っかかりましたわ」
高感度センサー?
「な、何も映ってないわよ…はぁ、はぁ…疲れた。マジ、キミカあんたマジぶっ殺す…」
まだ言うか。
動画としてナツコは録画していたのだろう。俺とナノカ、ユウカがはしゃいでる(じゃなくて本気でユウカがブチ切れて俺の水着の肩紐に手を掛けているシーンなのだけど)シーンで、どこにもカメラを持った小僧どころか、3人以外は映っていない。
「ははは、ナツコはバカだなぁ」と俺。
「むッ…」
「キミカさんも目を凝らせばこれが何か分かるはずですわ」
目を凝らせばって、目を凝らさないと見えないカメラ小僧ってどんなだよ、ったく。ともう一度、俺のおっぱいが全面公開されているシーンを見てみる。ん?
「なんか一瞬黒い物が映りこんだような?」
そう、確かに何か黒い高速で移動する何かが画面を横切っている…でも、これって、なんだろ?鳥?
「では、高感度センサーカメラで捉えた映像を超スロー再生してみますわ」
ナツコがタッチパネルをピンピンといくつか触って、動画をスロー再生する。
「あ…」
「あ…」
「これ転校生の『にぃぁ』って子じゃないの?」
はえーッ!!!!
はえーよ!!!!
どんだけはえーんだよ!!超スロー再生してやっと何が横切ってるのか分かるじゃん!ちゃんとカメラで俺を撮影してるし!!!
「さすが転校生…やるわね」
いや、そこ突っ込むところ違うから!
「まぁ、残像ならしかたありませんわね」
仕方なくねーよ!!!人間だったらなんでこんなに高速で移動できるんだよ!!
「おそらく200m/秒ぐらいの速度ですわね」
「銃の弾より速いじゃん!!」
「とにかく!!この出歯亀を捕まえるわよ!!」
さっきまでぜぃぜぃ言ってたユウカが突然立ち上がって言う。
捕まえるったって…銃の弾並の速さの奴を捕まえれるのは変身した俺ぐらいじゃなきゃ無理じゃんか。