13 帰宅部のエース 1

その日、いつものように昼食は俺、ビッチ、ナノカの3人で食べていた。
最近ここのマッシュポテトや、まぁ、マッシュポテトに限らず様々な食材に共通して言える事なんだけど、組み合わせで違う食べ物になることに気付いたのだった。俺はマッシュポテトを麻婆豆腐と一緒にすることでマーボーマッシュポテトを考えついたのだった。ちょっとタレの多めで辛いのが苦手な人は敬遠してる麻婆豆腐だけどこうやってマッシュポテトと一緒に食べるとほら、辛さも抑えられて食感も楽しめる。
「やだなにそれ、小学生の男の子がやるような事やめてよ…」などとビッチはブツブツと言っていたが別にビッチが食べるわけじゃないんだからいいでしょうが!
「そんなに欲しかったら分けてあげるよ」
と0.5秒ぐらいの速度で皿に盛ってあったマーボーマッシュポテトをスプーンで掬ってビッチの皿に置こうとしたら0.3秒ぐらいの速度でビッチは皿を退けやがった。なんという反射神経の良さ、いや、俺が次にどういう行動に出るのかを「やだなにそれ」の「や」と言った瞬間から推測していたに違いない。
「ちぃ…俊敏な」
「ふっ、甘いのよ」
そんな二人のやり取りを見ながらナノカは、
「ときにキミカっち」
と話を降ってくる。
「ん?」
「部活決めたの?」
あぁ、そういえば前に部活見学したきりだったなぁ〜。どこか入りたいってワケでもないし、自分、部活っていうより体育会系の人が嫌いだからそういう人が集まる運動系の部は入りたくはないな。
「ん〜。まだ」
すかさずビッチが、
「はいりなさいよ、テニス部」
「なんで!」
どういう理由で俺がテニス部に入らないといけないんだ。毎日ビッチと喧嘩しなきゃいけないじゃないか。
「まだ勝負がついてないからよ!」
「しょうぶぅ?おほほほ、子供ねぇ」
「チッ…」
その「しょうぶぅ?」の「し」のところでビッチが0.5秒ぐらいで自らの皿に残っていた大豆とエビの海鮮サラダの中の大豆を俺の皿に放り込もうとしていたところを俺は0.4秒のところで避けて、大豆は虚しくもテーブルの上にコロンと転がった。
「じゃあ、何部に入るのよ?」と続けざまにビッチ。
帰宅部かなぁ…」
俺は大豆を指先でビッチに狙いをつけてピンと弾くと、ビッチはあのテニスの時に見せた素早いラケットの振りでスプーンでそれをキャッチして皿に戻す。そして続けざまに、
「はぁ?帰宅部ぅ?ほんと、青春を謳歌しない人ね。若い時は身体を動かすのが一番いいの!家に帰ってテレビゲームでもして遊んでるんでしょ…。不健康だわ。不健全だわ」
「青春(笑)を謳歌(笑)」
「…そこ、いちいち(笑)を入れない」
ビッチは帰宅部っていうのをただ家に帰るだけの人達と勘違いしているようだ。俺が帰宅部の真実を教えてやろうか。
「あんまり帰宅部舐めてると怪我するよ」
「帰るだけでしょ…」
帰宅部のインターハイがあって、いかに早く帰るかというところに着目して日々それに向けての練習をしてるんだよ。みんなが教室の掃除をしてる時に誰からも指摘をうけずにこっそりと帰り支度をして、外の掃除をしている人がいる中で気付かれずに校門を出る。帰る途中で飲み食いとかは厳禁。友達の家に寄るなんてもってのほか。交通機関に車、自転車、徒歩、バス、電車…自分に合う最速のルートを選ぶという頭も使うスポーツだよ。もちろん、制服姿で荷物も持って最速で家に帰るわけだから普通の運動部みたいに動きやすい格好じゃない、だから体力もつく。途中で寄り道がしたいという欲求との戦いを続けなければならないんだから実は精神力がものをいうスポーツと言われていて海外でも一目を置かれているんだよね」
「みんなが掃除を、まで聞いた」
「おーい!」
「結局部活するような根性なくて、友達つくるような器量もなくて、一秒でも早く学校から脱出したいとか考えてる人が帰宅部に入るんだよ。学校がつまんないとかプライベートを大切にするとかそれらしいカッコいい理由をよく聞くけどさ、ようは『社会不適合者』予備軍だよ。会社に入っても仕事も出来もしないくせに時間になったらさっさと帰って他の人に迷惑掛けるだけだよ、別に高校の時だけの話じゃないしさ」
「こんのやろう…」
「ん?なに?怒ったの?怒っちゃったの?あらやだおくさん、この子、大人気ないわね」
「く…」
俺が悔しさで食べるスピードを早くしていると、ナノカが言う。
「ふたりともやめてよ、私の前でいちゃいちゃするのは」
俺とビッチは声を揃えて言った。
「「してないし」」