9 初デート 6

泥棒どもの様子を見てみる。
どうやら鉄格子をどうやって開けるのかについて議論しているようだ。女がバッグから何やらダイナマイトらしきものを取り出している。これがダイナマイトかどうかってのは専門家じゃないからわかんないけど、それは鉄格子にぴったりと張り付けられたら、もう爆発物としか思えない。
って、こいつら、店員や客は無視かよ!その爆風に俺達が巻き込まれようがどうとも思わないのか?!俺は震えて泣き声を出しているビッチの頭を手で抑えて、
「ヤバイ、爆発するよ!」
と言った。
案の定、次の瞬間、パンッ!と破裂するような音が聞こえて、周囲が煙に包まれた。衝撃波で天井やらが抜けて埃が降りてきたとでもいうのだろうか。
これは…チャンスだ。
俺は泥棒の連中からも姿が見えなくなったのを確認して、そのまま立ち上がってダッシュでその場から離れた。もうそろそろ周囲に人は居ないだろう、とそこで俺は…えっと、合言葉はなんだっけ…。指を四角にして回転させて、「私の心、アウトルック」だっけ…?「私のお股、アウトソージング」だっけ…?
とか考えている間にもどんどん煙が消えていく…やべぇ!
いや、まてよ。落ち着いて考えるんだ。確かデブはいちいち合言葉を言うのは非経済的だから、頭で思うだけで変身とかモノを取り出したりとかできるようにしたよ、って言ってたよな。
俺は目を瞑って、指で四角を作る。そして変身したいって気持ちになる。
すると…。
俺の脳裏に前回の戦闘で着用してた戦闘服?みたいなのが浮かんだ。漆黒のマント、セクシーな黒いブラに黒のハーフパンツ…。たしかこんな感じのエロカワ衣装だったはずだ。よし、これで変身…!
俺の周囲に漆黒の闇が円となって現れて、俺の身体を包み込む。
あの時の冷たい感触が再び俺の身体を覆う。服が吹き飛んだ感触があって、その後見てみると、あの漆黒の戦闘服を着用していた。よし…成功!
俺の変身した時の衝撃波が埃を完全に吹き飛ばしてしまい、俺は泥棒の連中に丸見えになっている。覆面の女が俺を見て何か叫んだ、と共に、他の覆面ども、そしてドロイドが一斉に銃を構える。
俺は地面に向かってグラビティコントロールを働かせて、フロアのコンクリを壁のようにしようとした、けど、地面で戦った時と違ってそれほどコンクリがない。薄皮のような防壁を銃弾が貫いて俺に命中するが、そこはやはり俺のバリアが機能している。銃弾はまるで魔法の防壁に阻まれるように俺の目の前で光の粒になって落ちていく。
その様子を見た泥棒どもが口をぽかんとあけて俺の方を見ている。ふっ。アホどもが。俺に通常兵器は通用しない!
だけど…。これ以上喰らったらまたバリアが剥がれてしまう。とりあえず敵の銃撃が止んだところで俺はフロアの地面をありったけかき集めて防壁を作り出した。そして、武器リストの中から「レールガン」を取り出した。お前ら人間なんぞはこの武器で十分だ。
俺の作り出した物陰から、泥棒連中の一番端っこに突っ立てたマヌケ野郎の銃を中心に狙った。食らえ!さっきの店員さんの敵だ!と、俺の放った銃弾は奴の銃及び腕、肩から血しぶきをあげさせた。
「ぐああああ!」
と日本人にもわかる叫び声を上げて倒れてのたうち回る泥棒野郎。
と、その時、俺はビッチがさっき伏せていたところの上、天井が爆風で脆くなっていて、崩れそうになっているのを見つけてしまった。このままじゃビッチが天井の下敷きになってしまう。
「やれやれだぜ、ヒーローってのは敵を倒すって事と、一般ピープルを救うって事を両方しなきゃいけないんだよな、やれやれだぜ」
俺はグラビティコントロールをフル稼働して、一気にビッチの側に飛ぶ。
寝転がって雨に濡れた子猫みたいに震えているビッチを抱き抱えた。
泥棒連中め、ここぞとばかりに俺に向かって射撃しまくってきやがる。銃弾が俺の正面でバリアに阻まれて赤い粒になって地面に転がっていく。俺のバリアがまだ健在のうちにいったんはビッチを安全な場所に運ばねばならない。
「キミカ…」
ビッチが俺の顔を見て言う。
「つかまって」
俺は再びグラビティコントロールを周囲に放ち、衝撃波で埃やら天井やらを煙幕として使って連中の銃撃を中断させ、そしてその場から一気に飛び立った。