7 学園見学ツアー 11

「ふんっ!」
と俺の威勢も、自分の中にある恐怖心もすべてをその「ふんっ!」って一言で吹き飛ばして、ビッチはサーブの構えをした。殺る気だな。ならば手加減はもうしない。
ビッチのサーブは相変わらず俺の居ないところへと狙ってくるだろう、と思って俺はビッチがラケットにボールをあてるその瞬間に神経を集中し、その弾道ベクトルを算出した。次は…左だ。左に来る!
来た!
狙い通りの左だ!
俺は俺自身のグラビティコントロールが変身前で出せる限りの100パーセントの出力状態で、ボールに神経を集中する。周囲の時間が遅くなったかのようになる。俺の脳の処理能力が増した状態になっている事を意味しているのだ。どうやら変身後ほどじゃないけど殆どの力が変身前に使えるようだ。
ボールはスローモーションで俺がラケットにボールを当てるのに最適な位置に飛び込んでくる。しかし。しかしだ。俺がもし全力でこのボールを打ち返してしまったら、その強力なスマッシュは確実に『俺の』ラケットを突き破ってしまい、最悪な場合はそのままボールは『俺の』コートにポトッと情けなく落ちてしまうだろう。落ちてしまうっていうオチを考えたんじゃないか?いや、誰が考えたかとか言わないけど。俺がそんなバカな事をすると思ったのか?バカめ。
「もらったァァァァァ!!!」
俺はラケットにボールが当たるか当たらないかという距離で最大のグラビティコントロールをボールに対して、いや、ボールの周囲の空気に対して行った。テニスコートを構成しているコンクリが衝撃波でメリメリ削れていくのがわかる。ボールの周囲の空気ごと、放つのだ!
その衝撃波はコート中央に設置された間抜けなネットを突き破り、残念ながらビッチの真横を通りすぎて、直線位置にある体育倉庫に直撃。その間抜けな体育倉庫を吹き飛ばし、貫通し、背後にある山に直撃、大きな砂埃を上げて木がなぎ倒された。
ビッチ・及び周囲のギャラリー「「…」」
俺は勢いつけすぎてバランスを崩して転んでしまった。
「いてて…」
足をちょっと擦ってしまった。芝生とかなら良かったのに。なんでテニスコートってコンクリなんだよ。と、俺が足をさすって、そして転んだ時にすってしまった膝の部分をペロペロと舐めた。と、その時だった。
ずっと向こうのほうから凄い叫び声をあげてこっちに駆け寄ってくる影がある。かなりの巨体だ。最初熊かと思ったけど二足歩行だったのであれは人間、しかも豚系だろう。
「うううおおおおおおおおおあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
何?なんだよ?
よく見たらデブじゃないか。何してんだあいつ?そして、デブはテニスコートに飛び込んできた。そのまま俺のもとに駆け寄ってきて、
「何してんだ!!!!リア充どもがぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
とマジキレモード。
「(何キレてるんだよ、落ち着きなよ)」
と俺は小声でデブ(担任の先生)に言った。よく見ると俺に向かって言ってるんじゃなくて、周囲のギャラリー及びビッチに向かって叫んでいるのだ。
「な、何って、テニスしてんのよ」
ビッチが答える。
「テニス?コレはテニスじゃないおおおおおおおお!テニスじゃないおおおおおおおおこのクソビッチがぁぁぁぁ!!!!!」
「だ、誰がどう見たってテニスじゃないの…」
「違う!違う!違っがーーーう!!!」
「テニスじゃなかったらなんなのよ」
「転校してきた可愛い女の子をテニスって面目でイジメて、周囲のギャラリーはそれをみてニヘラニヘラしながら『パンチラ見えねーかな』とか言って今夜のオカズにしたり、『あの可愛い女の子の顔に傷つけちゃいなよ、へへへ』とか言いながら自尊心を保とうとしてるんだよおおおおおおおおお!!!先生にチクられても『プロレスしてたんです、遊んでただけです。ほら、お前だって楽しいだろ?楽しいよな?』とか言われて、先生が消えたらボコボコにされたりするんだおおお!!!!!!」
なんか最後、すごいリアリティたっぷりなのですが…。
「中止!中止!中止だおおおおお!こんなの中止!いいか!お前たちは腐ったミカンじゃない!」
いや、誰も腐ったミカンだなんて言ってねーし、お前か?お前がそう思ってるのか?!っていうか、金八先生を微妙に真似ててすごいムカつく。
「ビッチ!お前は校長先生にチクってやるからな!」
お前は何もしないのかよ。さすがに今回はビッチが可哀相だ。確かに勝負を挑んできたのは認めてやるが明らかに俺が勝っていた。敗者に課せられるべき罰ゲームにしてはちょっと酷すぎる。退学とかになったら嫌だしな。
「先生、落ち着きなよ、本当にテニスをしてただけなんだから」
「テニスしてて体育倉庫が吹き飛ぶわけないだおおおおお!」
いやまぁ、そりゃそうだけどさ…。
じゃあ何してたら体育倉庫が吹き飛ぶんだよ…。戦争か?
「(先生が間に入って確執を作ったらあたしがこれから学校で生活しにくくなるんだよ)」
とコソッとデブに言う。
「ふぅっふうっ…ま、まぁ今日のところはイジメっ子は見逃してやるにゃん…またイジメ見かけたら今度は容赦しないですぉ…」
かくしてデブの仲介もあって、この変な勝負は終わってしまった。
しかし、俺の戦いに終わりはないのである。