7 学園見学ツアー 10

ビッチはしたり顔で「私、遠くにあるりんごを弾き飛ばすぐらいに、テニスボールの射撃がうまいの」と言いやがった。野郎…っざけやがって…。
「こらこらこら!ダメじゃないか!」とさっきのリア充先輩が割り込んでくる。「ほら、ふたりとも、仲良くやろうよ。裕香ちゃんも新人さん相手に本気になっちゃダメだよ」ってやっぱりコレが本気って奴だったのか。クソ。なんていうテニスプレイだよ。身体に当てるゲームだと思ってんのはビッチのほうだろ絶対。
「先輩は黙っていてください。テニスの厳しさを教えてるんですから」
テニスの厳しさ(笑)ねぇ…。
そろそれ俺も本気だしちゃおっかな?
「それじゃ、そろそろ慣れてきたことだし、本気だしちゃおっかな」と俺は敵意ムキ出しの目でビッチ野郎を睨みつける。立ち上がって気合を入れた。気合を入れると同時に周囲の埃がぶわっと俺を中心に巻き上がる。
「ふ、ふーん」
と言ってるビッチの頬に一筋の汗。きっとあれは冷や汗。
「ま、まぁ、スポーツなんだから仲良く楽しくやろうよ!ね!」とリア充先輩が間に入る。
「先輩。邪魔。殺しますよ」とビッチ。
「ひぃぃッ!」
情けなくリア充先輩はコート脇に逃げていった。
サーブはビッチだ。
また上から強烈なサーブが俺のコートに叩きつけられた。俺は辛うじてそれを返す。もっときちんとした体勢じゃなきゃ俺が狙ったコースでボールを放てないんだよ。難しいなおい…。
ビッチは俺が力を緩めて辛うじて弾き返したボールで完全に主導権を握った。思いっきりビッチパワーを叩きつけることが出来る体勢だ。奴は狙ってくる!絶対に!
ビッチはボールを叩きつける。カーブを描いてボールが俺のところへ飛んでくる。俺を狙っていると思ったが、ボールは地面に1バウンドしやがった。しかも回転が掛かってるみたいで、気がついたら思いっきり俺は太ももを狙撃されていたのだった…。
「痛ったーい!!」
俺のふとももにテニスボールの痕が残っている。クソがぁぁ!
「うぅぅ…痛いよぅ…」と、俺はその痕が痣にならないように手でこすっていた。擦ったら痣にならないってばあちゃんが言ってたような気がする。
「だ、だ、大丈夫かい?」
リア充先輩が駆け寄ってくる。そして俺の太ももに優しく手を触れて擦る。「ここが痛いのかい?」とか言いながらその手は太ももからスコートの中へ…そして段々と俺の股間に近くなって、
「ベシッ」
俺はその手を叩いた。
そんなやり取りを見ていたビッチは一言、
「先輩どいて、 そ い つ 殺 せ な い 」
マジで逝った目で言い放った。ほほぅ。やる気だな。いや、殺る気だな。いいね!実に!俺は嫌いじゃないよ、そういう 愚 か な 奴 !
「先輩、どいててください。先輩も死にますよ」
と、俺はにっこり微笑んであげた。リア充先輩は顔を引きつらせてまた再びコート脇へと逃げた。
「ビッチさん」と俺はあえて奴の愛称で呼んであげた。
「ビッチじゃないって言ってるじゃないの!このビッチ野郎!」
いや、俺ビッチじゃないけど。童貞だけど。…いや、処女だけど。
「『後悔』って言葉知ってますか?知ってますよね。自分がやった行動に『ああすればよかったな』『こうっすればよかったな』と後で思うことです。でもそれは本当の『後悔』じゃないんですよ。後悔って言葉の意味は辞書に載っている『陳腐』な意味じゃないんですよ。後悔って言葉の本当の意味は…」
「何よ」
「 死 ん で か ら 理解するんです…」(ゴゴゴゴゴゴゴゴ)