7 学園見学ツアー 2

なんだかこのガタイのいい女、意外と策士だぞ。俺に恥じかかせようとしてるわけだな。そりゃ走り高跳びしらない奴が今から初めてそれをやるんだよ、失敗率高いだろうが。さすがにこの成行きはビッチも疑問を思ったみたいで、
「先輩、藤原さん運動得意かどうかわかんないんだから、いきなりそんな事して怪我とかしたりするかも知れませんよ、まずいですよ」とフォロー…いや、フォローになってんのか?お前どうせできねーんだから怪我するからやめとけボウズって感じに言われてる気がしてムカつく。
「大丈夫大丈夫、人間って自分から怪我するような事する前にセーブするんだって」って俺に聞こえるように言ってんじゃねーよ、柔道部野郎…。
一方で菜々香菜々香で、「早くパンチラ見せてよ〜」と顔を真赤にしてる。「マンチラでもいいよ…」いや、見えねーから。その距離からチラしても絶対見えねーから。こいつはこいつで間違っているな。
やれやれだぜ。
確かに女になってから体重が軽くなったのもあって身軽になった気がした。運動神経って奴も男の時のそれと比較にならないぐらいによくなった気がする。でもあくまで『変身後』が凄いのであって変身前の俺はごく普通の女子高生がちょっと男並みに運動神経が良いんじゃねーの?っていうぐらい、のはずなんだ。あのグラビティコントロール(重力制御)も使えないし、空はもちろん飛べないしジャンプも多分重力の法則に従ったものになるだろう。
なんとなくイジメられてるって気分で俺はスタート位置に立って、それから自分の中でちょっとした合図もしてゆっくりと走り始めた。確かに身軽だ。スピードがどんどん上がっていくのが自分でも分かる。男の時は走っても走っても思うように進まなかったからな。今は思う以上にスピードがでてる。このスピードならジャンプする起点がもうちょっと手前でもいいんじゃねーのかな?と、俺はさっきガタイのいい女がジャンプした地点よりも手前で思いっきりジャンプした。
思ったよりも…いや、思った以上に身体が軽い。軽くジャンプしただけなのにどんどん地面を離れて…え?ビルの2階ぐらいの高さから地面を見つめているような感じになったぞ…。とにかく、そのまま身体を逸らしてさっきガタイのいい女がやっていたように宙で身体をひるがえす。物干し竿よりも2メートルぐらい上を通過して、俺は本能的にもうこのベッドみたいなところに着地出来ない事を悟った。ベッドを飛び越えて地面に足をつく…と、その時に衝撃が俺の足を襲ってへし折れてはいけないので、ちょっとゆっくり落下するのを頭でイメージしたらそのままゆっくりと地面に着地した。って、おい…。
振り返ると俺はさっきジャンプした起点から10メートルぐらいは進んだ位置に着地していた。そして振り返りついでに周囲の人達が見えたんだけど、みんな俺のほうを口をあんぐりとあけて見ている。それこそグラウンドの奴らが全員俺のほうを見ているような感じで。
俺は急に恥ずかしくなって、そそくさとビッチと菜々香のいるところに走っていくと、「ちょっと、あんた、何あれ…」とビッチ。
「…」ガタイのいい女は口をあんぐりと開けたまま俺を見てる。
「ふふ…今日のパンティーは黒ですね…ふふ」…。菜々香は一体どこを見てt…いや、こいつならそこしか見ないだろうな。ある意味安定しているな。
がっちりしたガタイの女は俺の肩をガシッと掴んできた。いきなりだ。そして血走らせた目で「ねぇ!陸上部入らない?はいろうよ!絶対県大会出れるって。いや、オリンピック出れる!金メダル取れるって!」
おいおい、さっきバカにしてたのとは180度反転しやがったな。
「ああ、あたし、そういうの興味ないんで…失礼します」
これ以上絡まれると無理に部員にされそうだ。
俺は逃げるようにその場を離れた。それに続いて菜々香やビッチが「あ〜。待ってよ〜」と追いかけてきた。