6 気になる転校生 6

静まり返った教室で、「あ!」って声がする。「あ!」っていう声の主は立ち上がって俺のほうを指さしている。いやいや、今一番やばい人は俺じゃなくてこの隣にいるキチガイ先生でしょ。
「あ、あんたは…!」
ん?げ…早見裕香!なんでここにいるんだよ!
「ビッ…」
危うく俺はビッチと言いかけた。みんなの目もあるからビッチと言うのは止めておこう。
「そこ!!!座りやがれクソビッチ!!先生の言う事聞けないならお仕置き精神注入棒をケツに刺すぞこんちくしょうめ!!」
ビッチには間違いないが、ちょっと落ち着けよもう。
クラスには女子男子合わせて20名ぐらい。みんな揃いも揃いっておとなしそうな顔の人ばかりだった。俺が通っていた学校じゃ不良の1人や2人いたんだけど、ここはやっぱりちょっと上流階級の賢い人がくる学校らしい。なんでそこにビッチがいるのかわかんないけど。女子の数は4分の3ぐらいを締め、残りは男子。元々女子高だったところにいる男子っていうのも随分と肩身の狭い思いをするというけど、ここも例外なくそうみたいで女性ホルモンが大そうな男子はネズミみたいに隅の方に机を固めている。
そして今、このクラスで恐怖の中心になってるのは俺の隣にいるバカ。なんで先生になってるんだよ…。
「富永先生はどうしたんですか?」
女子の一人が手を上げてから立ち上がって、そのような質問をデブに向かってした。ほらほら、辻褄合わなくなってんじゃん…。まさかと思うけど、学校のデータベースに侵入して教師のデータを書き換えたとかじゃないよね。いや、それなら俺がここに転校生として来るっていう情報も書き換えた可能性がある。なんか一つのプロジェクトを成し遂げた後のような、いや、一つの大きな犯罪を成し遂げたあとのような顔をしていた。マッドサイエンティストの顔だったからね。
「奴は童貞をこじらせて死んだぉ」
…。
「富永先生、女の人だよ?」
…。
「いいから奴の事は忘れるんだぉ!!!今からは僕がこのクラスを仕切る…!」
「先生、隣の人の紹介してください」
先生、いや、デブはメガネをカチリとやりながら、「そうだったぉ。僕としたことが取り乱してしまった。許してにゃん。この子は今日から君たちのお友達になる藤崎紀美香ちゃん。仲良くしてあげてください」と言ったあと、一息ついてから「そこの男子ぃぃぉあ!!」
ネズミみたいに隅のほうに机を並べてる男子はビクッとして目を見開いてデブのほうをみる。
そしてデブは「藤崎さんに指一本触れようものなら、マイクロブラックホールの中でミンチになってもらうお」というあながちジョークではないような脅しをしていた。
「ふぅ。藤崎さん」とデブは顔を真赤にしながら、「あの開いている席に座りなさい」と言った。
「は、はい…」
俺はよろよろと歩いて、俺の為に用意されたと思われる空き席に座った。って、なんでこの席、ビッチの隣なんだよ。う〜ん。せめてもうちょっと距離を置かせて欲しいな。