17 コンセッション・ハンター 3

「ふむ…」
ところ変わってドライブスルーのハンバーガー店の前、刑事である東屋(祖父)と彼の部下である小山内の二人は店に入るところであった。店は二人が普段から昼食調達用として愛用している場所であった。
「どうかしたんですか?」
「孫から電話だよ」
「電話…電脳通信ですね」
「うん。ああ、ファイルを送ってもらった。電脳工学に詳しい千葉という人は知っているかな?彼の生徒のリストらしいが…」
「ああ、有名な人ですよ。今のユキビタスコンピューティングはその人が居ないと成り立たなかったっていうぐらいに」
「ほぉ〜」
「そのリストで何するんですか?」
「いやな、孫が言うには今回の事件を引き起こしているのが千葉教授の生徒達の中にいるというんだがね。どうにも腑に落ちない」
「?」
二人はそのまま店内に話をしながら入っていき、店員のアンドロイドに注文をしながら、その間も話を続けている。
「例えばだ、犯人が、…そうだな、誰かを人質にして身代金を要求してくる輩だとして…その輩が一番してはならないと思っていることはなんだと思うね?」
「警察に捕まること?」
「はは…まぁ、そりゃあ間違いじゃないな。他には?」
「ん〜…警察に捕まらないようにするには、ですよね」
「うん」
「証拠を残さないことですよね、まずは」
「そうだな。他には?」
「証拠を残さないと同じ事かも知れないですけど、自分の素性が明かされないこと…それから…なんだろう?捕まりそうになったら逃げ切る事ですか?」
「…まぁ、そうだが、実はあと1つ足りてない。答えを言おうか」
「?」
「犯罪が起こったという事が警察に知られないことだ」
「ああー。そっか」
「スピード違反をした奴が『警察にばれなければどうという事は無い』と思うだろう。誰も見ていないのなら無かったも同然だしな」
「ですねぇ…」
「じゃあ今回の事件をそれに照らし合わせてみようか。まず、結果的に犯罪が起こった事が判ったが、最初はサーバへの接続が出来なかったから、事件ではなく事故だと思われたはずだ」
「システムトラブルに見せかけて実はハッキングを仕掛けていたという…」
二人は注文した品が出来上がったのでそれを持ってテーブルへ移動する。
「そうだな。で、次が重要だ」
「タロットですか」
「その前にもう一つ。LOSのシステム開発者がシステム内にログインした後、外部との通信を取ろうとしたが邪魔をする輩がいる、という話だ」
「ああ…そっか」
「システムをハッキングすること、ログインサーバを占拠すること、外部との通信を絶とうとすること、これらは全部目的が共通している。EAIだか警察だかの介入を邪魔することだ。だが次にくるタロットの話は今までの話と比べると異質なんだよ。タロットにはヒントが書かれて、そのヒントの通りに事を進めれば解除される。まぁ『解除』の主語が何になるのかは今はわかんないんだがね。外部との通信を邪魔しようとした者と、このタロットの仕掛けを作ったものが同一人物とは思えん」
「あーなるほど…。じゃあ、犯人じゃないとしたらなんなんですかね?」
「LOSのシステムに侵入してくることを予測していて、その彼らに道標を示している…この点から考えると、味方のようにも見えるんだがの。ただ、人ってのは何かしらの目的を持って動く。目的は人それぞれあって、それがその人にとっての正義なんだよ。だから警察にとっての正義は犯人を捕まえること、けれども、犯人にとっての正義は捕まらないこと。だとしたら、このタロットの宿題を与えた輩にとっての正義はなんなのか、だよ。それが解れば謎は少しだけ解ける」
「正義ですか…私は単に私たちやEAIの社員の人を弄んでいるだけだと思いますけど」
「弄ぶことにも正義はある。わしらには理解できんがね。それじゃ、とりあえず雄二に貰ったリストで連絡のつかない人をあげていくか」
「了解です。じゃ、ちょっとリストを拝借しますね」
ほんの数分後、小山内は結果を出してきた。
「全員連絡がつきますね」
「だとしたらコレはハズレって事か。もしLOSシステム内に侵入しているのなら電脳通信経由で連絡がつかないだろうからなぁ」
「どうします?」
「とりあえずリストは一旦は保留しよう。最初の目的地に行こうか」