165 気にならない転校生 8

生徒達も、先生達も集まってきてる。
体育倉庫の周辺はお祭り騒ぎだ。もうお店を出したら儲けが出るんじゃないかっていうぐらいに人が集まってきてる。
クッソォ…俺の腕のせいだってバレたら大変だぞおい。
しかも倉庫の中から「ひぃぃいぃ」という叫び声の後、先生達が逃げ出してるじゃねぇか、マジパネェっす…。
「大変な事になってしまいましたわ…」
あたふたしてるナツコが居る。
「とにかく中に入って奴を殺すか捕獲しないと」
そう俺が言うと、
「ウリは外で奴が逃げないように待っておくニダ」
とか言いやがる。クソ・ソンヒが。
「なんで外で待っておくのがソンヒなんだよ!」
「う、ウリは肛門の貞操を守りたいニダ…」
「肛門を狙うって決まったわけじゃないじゃんかよ!」
「トニカク、中ニ入レルノハ普通ノ人間デハ無理デース」
「…」
「コノメンツダト、2名ハ入ッタホウガイイデスネ」
「…」
「じゃんけんで決めるニダ…」
「OK」
「えーっ…じゃんけん弱いんだよなぁ…あたしは」
そんな話をしている間にも先生達は消防署を呼ぼうだとか警察を呼ぼうだとか南軍へ連絡するべきかだとか言い出してる。
渋々俺はじゃんけんをすることにした。
3人はお互いが何を出すのかを決める。
2分かそこら気合を入れたのち…。
「「「じゃーんけーん…」」」
「ちょっと待つニダ」
「ンだよォ?!」
「最初はぐーっじゃなかったニカ?」
「知らないよそんなん!」
「ウリの学校ではそうだったニダ」
「じゃあそれでいいよ!早く!」
…。
「「「最初はぐーっ…じゃんけんぽい!」」」
「「ぎゃぁぁああぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」
「Yes!!」
クソッ!!
俺とソンヒが一発で確定してしまった!!
「逝ッテラッシャイマセー」
「うるさいよ!」
コーネリアの喜ぶ顔に見送られて、俺はレールガン、ソンヒはハンドガンを装備してゆっくりと、ゆっくりと慎重に体育倉庫の中へと入っていく。もうお化け屋敷にでも入る時よりもハイレベルな緊張感に包まれながら入っていくのだ。
ん〜…。
ぱっと見、居ないな。
「なんか…埃が舞ってるニダ」
「動いた形跡があるね…」
いくぶん整理されてる倉庫内だけれども奴が動き回った形跡が至る所にある。移動する時に指で己の体重を支えているから、どうしても腕の部分を引きずらなければならないからだ。
その時に埃を擦ったり撒き散らしたりするのだろう、移動跡が残っている。これを追っていけば辿り着けるのが本来だけれども、それをさせないように様々な場所に移動してるのだ。つまり、スタート地点もエンド地点もわからないよう、ごまかしている。
これはそうとう頭のキレる腕だぞ、おい。
(カタカタカタカタ…)
「ひっ!!」
「ネズミニカ?」
い、今、動いたぞ。
何か隅っこのほうで移動してた。
(パンパンパンッ!)
ソンヒのハンドガンの音が響く。
「いたの?!」
「とりあえず撃ってみたニダ」
「…」
(カタカタカタカタ…)
俺とソンヒは顔を合わせた。
さっき音がしたところと反対の方向から同じ音がしたのだ。
「ふ、二ついるニカ…?」
「まさかァ…」
俺達を錯乱させるためにそう思わせる『演出』をしてるとしか思えない。いや、分裂しただなんて思いたくないだけかもしれない。
(カタカタカタ…)
「そっちニダ!!」
今度は確実に、音がした方向に向かって俺もソンヒも一斉射撃した。トドメをさしたか?!と、思ったその時だった。
(ひゅっ…ストン)
何かが空から降ってきたのだ。
あまりにも突拍子も無いから俺もソンヒもきょとんとしていた。しかし、目の前にある光景に二人同時に叫び声を上げざるえなくなった。
ソンヒの股の間に、あの悪魔の腕が、サバイバルナイフを床に突き立てた状態で居るのだ。
「「う、うわぁぁあぁぁぁぁぁぁ!!」」
あと数センチズレてたらソンヒのオマンコに突き刺さっていたぞ、おい!っていうかそれを知ってソンヒ、失禁。
(ぷしゃーッ)
すぐさま悪魔の腕はナイフを放して俺に飛びかかってきた。っていうか一体どういう脚力をもってしてジャンプしてるのかわかんないぐらいにトリッキーな動きだ。
そのまま俺の喉に爪を立てるように、首を占めてくる。
「ん…にゃろぉぉぉォォォォァァァァァァ!!!」
たかが腕に俺が殺されるかよナメんな!!
俺は猫の喧嘩も真っ青な乱戦をして、倉庫の中をめちゃくちゃにしながら腕と格闘した。もう服は肌蹴るは下着は脱げるはスカートは引剥がされるはの大盤振る舞いだ。
トドメをさした…と思ったが奴が一瞬、俺の視界から消えたのだ。
あれ?
どこ行った?
「ソンヒ!奴はどこ?!」
「ひ…ひひぃ…おしっこ漏らしちゃったニダ…」
「そんなことより、奴は?!」
「ん…どこにも居ないニダ」
居ない…だと?
でもこの倉庫はコーネリアとの事前打ち合わせで完全密封したから倉庫外へと出ることはできないはずだ。仮に力技で出たとしてもコーネリアが設定してるクレイモアが作動して鉄片炸裂弾の餌食になる。
「それより、キミカ、お前、腕が元に戻ってるニカ?」
…。
え?
あ、ほんとだ。
俺の腕が切断前の状態に戻ってるぞ。
よかったよかった。
…え?
その次の瞬間。
俺の元に戻った…と思ってた腕が思いっきり俺に向かって攻撃を仕掛けてきた。あまりのスムーズな動きに俺自身の腕の正常な動きだと錯覚するぐらいにだ。ギリギリ、もう片方の腕で止めなければ、サバイバルナイフが俺の目及び脳髄を貫通するところだ!!
「ぎゃぁぁああぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
自分の腕がトチ狂ってそれに攻撃されるっていうクソみたいなシチュエーションが俺の前に展開されてる。
「う、うわぁぁあぁぁぁぁぁぁ!!」
「ソンヒ!早く!!これ切断して!!」
しかもクッソ強いぞこの腕の動き!!
グラビティ・コントロールを変身前ギリギリ最大限に出力。
「はよぅ!!」
「こ、こここ、これで切断するニダ!!」
ソンヒが何かのコードを引っ張った。
と、同時にモーター音が響き、それがチェーンソーであることが俺に理解できた。
「はよはよはよぅ!!死ぬ!!死ぬゥ!!」
「ううぅぅぅりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
(ゥゥゥウウゥゥィィィィィーーーーン!!)
(バリバリバリバリ)
(ブシャーッ!!!)
凄まじい返り血が俺、及びソンヒに降り注ぐ。
俺の目の前で機械仕掛の義手は、機械に似合わない血をまき散らして、俺やソンヒを血まみれにしながらも、真っ二つに切断され、その動力を失った…。