157 土下座外交 7

いよいよ夕食だった。
総理、安倍議員とその護衛である俺やタエは先日の朝鮮での失敗から、どうしても他所の国での夕食に恐怖感を覚えざる得なかった…まさかまた日本文化を変にパクった料理が出てくるのか?それともやっぱり中国だから料理が爆発してるするのかな?何せ爆弾以外ならなんでも爆発する国だからな!!
という不安をお互いが抱えながらも夕食(会食)の会場へと案内される。
ふと、思ったのだ。
朝鮮では大統領と会食してねぇなぁ…と。
当初では予定にそう入ってたっていうんだからどんだけKSAY(くさい)はトンデモ料理を作ろうとしてたんだよ、っていう。
しかし中国では国家主席が同席するらしいから、少なくとも国の代表が食べれるだけの味は保証されてるし、毒が入っている可能性も低い。期待が持てる。
恐る恐る会場へと入る。
白い巨大な円形テーブルの上には中華料理レストランでお馴染みの回転テーブルがある。そしてその周囲には座席の数だけ料理を取る小皿が複数。長い箸も置いてあり、白い布のようなものが皿に乗っている。
俺は口の中が涎で満たされる感覚を味わう…これはくるか?
まず幼女(安倍議員)が回転テーブルに興味を持って近寄り手でクルクルと回し始める。総理は総理で席に座ると早速皿を広げてスタンバイ完了を知らせる。あいも変わらずタエはPSPを見ながら歩いてPSPを見ながら席に座りPSPを見ながら料理が出されるのを待っている。
まだ、慌てる時間じゃない。
俺は他の面々がテーブルに座るのを確認して、ゆっくりと椅子に腰を降ろす。
メニューでも見てみようと思ったのだけれどそんなものはどこにもない。コース料理なのかな?にしても、コース料理でもお酒のメニューはあるだろうに。
などと思っていると、中国側の人間も数人、部屋に入ってくる。
誰が誰やらちょっと俺にはわからない。
ニュースも滅多に見ないからなぁ。
入ってきたメンツは普通に60代ぐらいのスーツ姿のオッサンとそれ以上の年齢なおじいさんみたいなの、それから二十歳ぐらいの女の人の3名だ。後は通訳のドロイドがいる…けれど、今日は政治的な話はご法度らしく、このドロイドも意味をなすものなのかはわからない。
朝鮮と同じく反日な政策をしていると思ってはいたけれど、意外と雰囲気は明るいなかでの食事会のスタートとなった。
「中華料理というのはバイキングで食べた以来だな」
そう総理は呟く…。しかもその呟きを拾ってアンドロイドが中国語に変換しているぞ!おいおい!変な事言うなよぉ…。
「バイキングか!あれだな!『食べ放題』のお店という奴だな?」
と幼女がニコニコしながら返す。
こらこら、それも翻訳されてるよ!!
「うむ。私は基本的に自炊なのだが、その日はどういうわけか家のガスコンロのガスが抜けきってて、夕食を食べることが出来なかった。それで翌日の昼『食べ放題』のランチを食べて飢えをしのいだわけだ」
「食べ放題なら夜もやっているのに、なんで昼なのだ?」
「昼のほうが安い。1000円で一週間分の食料を胃の中に納めた」
おいおいおいおいおいおい!!!
どこの貧乏一家だよ!!!!
今の全部中国語に翻訳されてて向こうの代表が訝しげな表情してるぞおい!
苦笑いしながら50代ぐらいのスーツ姿のおじさんが答える。
それをアンドロイドが日本語に翻訳する。
「安心してください。原価が1000円は軽く超えているので、きっと満足されることでしょう」…っておいおい、日本の総理ナメられすぎだろうが!!
しかし総理は総理で決して嫌な表情をせず、
「1000円を超えたという辺りでマスコミの総叩きを喰らうんでな…しかし、『1000円で一週間分だ』と釈明したところ、私の住所宛に国民の多くから野菜や肉や穀物が届いた。あれはとても助かったよ」
フォローになってねぇ…。
料理が運ばれ始める。
最初は前菜。
豚を細切りにしてネギやキュウリの刻んだ奴と一緒に、上からタレをかけたアレが登場した。俺はこの料理の名前だけなら言えるぞ。
そう『バンバンジイ』って奴だ。精力がつく食事で食べてから暫くの間、ジジイも有り余った精力を発散させる為にバンバン自慰しまくることからそんな呼び名がついたとネトウヨが言ってた。
これにはビールが合うんだよね!
それから何かの卵が黄身の部分が青白く変色したちょっと変な匂いがする料理だ。これも有名だけれど名前まではわからない。日本人は見た目を気にするから、こういうタイプのはあまり流行らないんだろうけれど、通な俺は好きだね。
そして白い紐のようなものが沢山入っている茶色の液体。
これはもしかしたら、原料がとっても高いっていうアレか?サメのヒレを使っているという…えっと、フカヒレ入りスープか?
とりあえず幼女がくるくるテーブルを回転させて美味しそうな料理を皿に乗せてるのを見ると俺も落ち着いて居られなくなってきた。
「すいませーん、ビールもらえますか?」
と調子に乗って質問してみる。
っていうところまで全部、アンドロイドに翻訳されてるゥゥ。
ふと、20代ぐらいの女性が俺のほうをチラッと見て不思議そうな顔をしてから、中国語で何か言っている。
「日本では未成年がお酒を飲んでもいいのですか?」
とアンドロイドが言う。
これには総理が答えた。
「日本では喫煙や飲酒には免許が必要となる。免許を持っていれば年齢には関係なくそれらの行為をしてもよい。しかし、免許が無ければ例え大人であっても、その行為をすれば犯罪となる。酒やドラッグに溺れて他の人間に迷惑を掛けるものをピンポイントで処罰し、嗜みとして他人に迷惑をかけず楽しむものは罰しない、合理的で誰にも受け入れられる法を整備したのだよ」
なるほど…そういう背景があったのか…。
幼女がそれに加えて答える。
「何が問題なのかを突き詰めれば、一律特定の年齢層には酒を飲ませるな!といった乱暴な法律にはならなくなる。酒が悪いのではなく、酒を飲む人間が悪いのでもない。酒を飲んで何か悪い事をする、それが悪いのだ。さらに突き詰めれば酒を飲んだことで日頃の鬱憤が現れる、つまり、そもそもの原因は日頃に鬱憤が溜まっていてそれを正しく昇華できないことにある。世界広しと言えど法律の中にこのような論調を取り入れているのは日本を含む一部の仏教国だけなのだ」
その話を目を輝かせながら聴いている20代女性。
こんな幼女の話でも説得力があるものなのか、中国語でポソっと呟く。
「興味深いです」
なんとなく、朝鮮の時とは雰囲気が違う。
全部が全部だとは言えないけれど、とても謙虚なイメージを受ける。
全部が全部だとは言えないけれど。