115 ロード・オブ・シャングリラ 4

「よし、ここらへんだな」
ジッタはそう言った。
「ここらへんって何が?」
「海蛇の洞窟攻略をした数少ない冒険者達から聞く話によれば、毎回ここらへんでサハギンどもがシーサーペントと共に現れて侵入者を片付けようとするらしい。それでたまに現れるサハギンの首領『ズ・ガッチャ』ってのがなかなかいい装備を持っているらしい」
「ジッタの情報は偏りがあるからなぁ」
「おいおい!海蛇の洞窟にお宝があるのも俺様の情報じゃねーか!」
「まぁ、それはそうだけど」
それから10分ぐらいは経過したが洞窟の奥の方からはサハギンは現れる事はない。さっき奥へと逃げていった連中もそれっきり出てこなくなっていった。
「でてこないね…」
マコトが言う。
何度か装備を構えては防御魔法などで身を固めていつでも戦闘出来る体制を整えてたりもしたのだが、いい加減飽きたようだ。
それからさらに5分経過。
ん?
何か臭ってきたぞ…?
「なんか腐ったような臭いがしない?」
俺が聞いてみると、
「うッ…!クッセェ!」
ジッタも鼻を押さえて言う。
はつみは鼻を押さえたまま一点を指さした。
海蛇の洞窟は内部が海と繋がっていて至る所に穴があるのだが、そのうちの一つからひょこっとドラゴンのようなものが顔を覗かせて俺たちを見ているのだ。
これは、シーサーペントだ!
「来たよ来たよォ!」
俺は早速、印を結んで忍術を発動する。
「気合いいれていけよ皆!」
ジッタが持っていたハンドアックスを構える。
「キミカちゃんはボクが守る!」
マコトは剣と盾を構えて防御魔法を唱え、身を固める。
「…」
はつみは無言で印を結んで地面の中から魔物を召喚した。お面を被って身体は真っ黒で呪術で扱うナイフのようなものを装備した人型の妖怪みたいなのと、顔中に呪術で扱う札が貼られまくって耳からは骨のイヤリングをしている人型の妖怪みたいなのの2体だ。
相変わらず気持ち悪い召喚だ。
さっそくシーサーペントが陸へと這い上がってきた。
洞窟内の壁を壊しながら俺達に向かってきて、その鋭い牙で噛み千切ろうとする。そこで前衛のマコトが盾でブロック。すかさずよこからジッタが斧で首根っこに攻撃するも、鱗が何枚かとれたぐらいでダメージは殆どない。
「雷遁!!電光石火の術!」
俺は印を結んで地面に手を添える。すると電撃属性の地走りが洞窟の地面を抉りながらシーサーペントに直撃する。ビリビリとした電気ショックに身体を反り返らせるシーサーペント。
横からはつみが召喚した「お面を被った妖怪」みたいなのが藁人形にナイフを突き立てながらキモい笑い声を出す。すると、地面から大量の黒い手が現れてシーサーペントの身体を引っ掻き回し、鱗などを引きちぎっていく…キモい…。一方で「顔中に札が貼られている妖怪」みたいなのがお経のようなものを唱えると、シーサーペントの身体の表面に様々な漢字が浮き出てきてそれが札へと変化して、その箇所から火が出てくる…これまた相変わらずキモい…。
このように、マコトが敵を引きつけて防御し、ジッタは横から物理攻撃を与えて、俺は忍術で直接ダメージは与えないがステータス異常を引き起こさせ、はつみは召喚した妖怪みたいなので非物理ダメージを与えて、パーティメンバーで協力して1体の敵を倒すのだ。
シーサーペントは安定してダメージを与えている俺達を前に次第に弱々しい声をあげるようになり、いよいよその巨体を洞窟の岩肌に横たわらせる事になった。
戦利品(シーサーペントの肉とか皮とか骨)を得た。
「結局サハギンの増援もなかったねー」
と俺が言ったその時だった。
洞窟の奥から「HeHeHeHe…」と不気味な笑い声を上げて、全裸の女キャラが走ってきたのだ。誰なのか調べようと思ったがそれは次に俺に与えられた驚きが阻害した為に至らなかった。
その女の後ろからモンスターの大群が現れたのだ。
サハギンにシーサーペント、サハギンの首領(名前はサハギン・ロードだがこれがジッタの言う『ズ・ガッチャ』)、それからオークの一般兵も。っていうか、一体どんな事をやったらこんなにモンスターを引き連れる事になるのか?それにこれだけ追い掛け回されて全裸の女の体力はほぼゼロじゃないのか?
しかし、女はまったくスピードを怯ませるわけでもない、軽やかにステップを踏みながら敵の攻撃を交わしいてる。
こいつ…できる!!
「キミカちゃん!!ここはボクにまかせて、君は逃げるんだ!」
とお決まりの台詞を吐くマコト。そのままサハギンの群れに飛び込んで、俺が一言も発する間もなくマコトは息絶えた。
このゲームでは死ぬと幽霊になってその場から移動できるのだけど、マコトの幽霊は俺の元へとやってきて「キミカちゃん!!逃げて!」とかたぶん言ってるのだろう…幽霊の言葉はわかんないや。
「マコト〜!!!(無駄死しないでよ!!)」
幽霊に言う俺。
「キミカの姉御!多勢に無勢だ!ズラかるぜ!」
「なんなんだよ、あの全裸の女はぁ!」
「ありゃMPKだ!」
MPK…?!
Monster Player Killerのことか!
Monster Player Killer…それは敵の群れの中に飛び込んで挑発し、大量の敵を引っ張って善良なプレーヤーの元へとやってくる。そして何をするかと言えば転送魔法などを唱えてその場から消え去るのだ。モンスターどもは興奮しているわけだから、最初に自分達を挑発した人間がその場から消えさってもそれに気づかず、目の前にいる善良なプレーヤーへ攻撃をし始める。
こういう手段でプレーヤーを殺して金品を奪う…これがプレーヤーキラー(PK)行為である事は言うに難しくないがMPKとわざわざ言うのは手段がそれなりに卑怯である事からだ。ただ、力と力のぶつかり合いであるPK行為とは違って別のところで頭を働かせなければならない点は難易度が高いと言える。
あの軽やかなステップでモンスターの攻撃を交わしているところから奴(全裸の女)のメインジョブはシーフか何かだろう。
全裸の女を先頭に、俺達もモンスターの群れから逃げる。
少し追いついたので全裸の女の名前を確認してみる…。
『こーねりあ』
…。
なんだとゥ?!これは偶然なのか?!
でもいかにもコーネリアがやりそうな事だ!っていうかあいつもLOS持ってるって言ってたっけ?
とにかく逃げねばならない。
俺達は散り散りになりながら洞窟から外へと走って逃げた。
途中でメイリンが釣りをやってたスポットを通り過ぎたが、既に『こーねりあ』がモンスター達を引き連れて周回していたのだろう、サハギンの足跡の側には『めいりん』の死体が。そしてあのバケツに入った高級魚が無慈悲にも散らかっていた…南無阿弥陀仏