101 アカーシャクロニクル・ライブラリ 2

放課後。
俺は帰宅部の大会を控えているため、大急ぎで練習(帰宅)をしようとしていた。最後の授業終了まであと1分…よし、もうすぐチャイムが鳴る、5秒、4秒、3、2、
「はーい!部活よ!部活の時間よ!」
な、なんだ…と?
バーンと教室の扉を開けてキサラが入ってきたと同時にチャイムが鳴った!!!!!俺が帰る暇もない!抜け目ない奴だ!!
クソッタレガァァァ!!
「あたしはちょっと帰宅部の練習が、」
と俺がダッシュで教室から飛び出そうとした時、突然足に何かが絡みつく感触、と共に、俺の身体は「ビターン!」という擬音が非常に似合うように廊下に思いっきり身体を叩きつけることとなった。
足を見る。
鉄の輪っかが…いや、鉛ぐらいの重さがある輪っかが俺の足にまとわりついている…てェンメェ…!!こんなクソみたいな事をやらかすのは1人しかいない!キサラの物質変換の能力だ!教室の床が鉛の輪っかに形を変えさせられ、俺の足にまとわりついているゥゥ!!
ぬぅぅ…。
渋々俺とマコト、コーネリア、メイリンはキサラとソラに連れられて旧校舎の文化部棟へと足を運ぶこととなった。
…。
…文化部棟。
それは文化部が部活動に使っている棟である。旧校舎の建物を利用しているのは、他に場所がなかったというのと、文化部の一つである吹奏楽部が楽器や設備を持っている場所がそもそも旧校舎にあったからだ。
運動部が専用の部室を用意してもらえるのと違って文化部の部室は「帰宅部はさすがに成績に響くけどとりあえず何かの部活に入っておけば将来有利になるだろう」系のダラダラした連中の為に用意されたものであり、場所だけを与えるからあとは好きに過ごせ的な教師達の思いが具現化されたような場所である。
ここにドロイドバスター部が作られているのか?
随分と古い造りの(洋風のお屋敷を思わせる)廊下を進むと、『準備室』とプレートが掲げられた場所に辿り着いた。
「ここなのか?」とソラ。
「そう!ここが、これからドロイドバスター達が活動する場所、ドロイドバスターの部員たちの輝かしい歴史のスタート地点になるのよ!でもドロイドバスター部とかってちょっと目立つわねぇ…」
「よくそんなんで申請が通ったな」
「あったりまえだのクラッキング講座よ!」
クラッキングしたわけだな」
「そうね!」
「で、名前はなんにするつもりなんだ?ドロイドバスター部は目立つと思うが…っていうか、学校でドロイドバスターの能力を使うのはどうかと思うんだが」
さすがはソラ。このイケイケ常識無視女に鉄槌を下せる常識人、最後のせき止め役、臭いものには蓋をしろの『蓋』だ。
「なんか長いのよねぇ…ドロイドバスター…ドロ部?イド部?スタ部?…スタバ?ドロイドバスターバックスカフェ?」
「長くなってる、もっと長くなってるから、っていうかカフェってなんだよ、もう部活でもなんでもないだろうが!」
常識人っていうよりツッコミ役だった…。
「ま、とりあえずは分かりやすいので、D部!」
「D部?」
「デブ」
短くはなったけど分かり辛い。
しかしキサラは手でパンッと壁を叩くと、さっきまで『準備室』だったプレートはピカピカの『D部』に変更させてしまった。
「さぁ!D部、部室にようこそ、部員諸君ンン!」
そう言って悠々とキサラは部室(準備室)へと入っていった。俺達ってなんの了承もなくいきなり部員なんだ…。
「うわッ!く…っさ…」
部屋はやっぱり使われてなかった。長年使われてないから埃もつもりまくりのカビ生えまくり。どう考えても人間がマトモに生活できる環境ではない。スえたような臭いが立ち込めている。
「お掃除しなきゃね!」
そう言ってキサラは両手を「バンッ!」と床につくと、やっぱりそうなったか、って思わず呟いてしまうほどにこの準備室の中の物質を全部変えてしまった。ヨーロッパのお屋敷風のインテリアが揃っている豪華な部屋に。中央には金持ちの家の食堂にありそうな長テーブルと王座のような椅子、それから家族が座る椅子に、テーブルの上には蝋燭、花瓶などなど。もう圧巻させられた。
「凄い…」
と言う俺。
「ちょっとやりすぎだろ…」
と冷めているソラ。
「何よ?どういう風ならやりすぎじゃないのよ!」
「っていうかドロイドバスター部っていうのは何をするところなんだ?それによって部室も合わせて変えるべきだと思うが」
そこで俺は間に口を挟んで、
「スタバみたいな感じがいいな」
「スタバァ?」
渋々とキサラは再び床に手をつくと、また部屋が一新させられた。スタバだ!スタバ風な雰囲気になった。並んでいる本棚、テーブル、そしてテーブルの上のMapPro。
「そうそう、やっぱりMapProがないとねー!」
俺は椅子に腰を降ろしてテーブルの上のMapProの電源を入れる。すると部屋に「じゃーん!」という起動音が鳴り響いた。
「わーい!」
じつに素晴らしい。
学校の中にスタバが出来た!後は飲み物とか食べ物が販売されるといいな。やっぱりスタバと言えばフラペチーノだよね。
「フラペチーノとかは?」
「スタバじゃないッツゥの!」
キサラは吠える。
しかしそれにしても、凄いな…。MapProの外見どころか中身まで完全に再現してしまうとは。あの一瞬のうちに。物質変換の能力を使うとここまで完全になんでも作り出せてしまうのか。
まさに創造主の能力じゃないか…。
俺は一瞬、ちらっとコーネリアの顔を見たが苦虫を噛み潰したような渋い顔をしていた。思いっきり才能の差を妬んでいる時の顔してる。