100 スーパーアルティミットハイパーエターナルウルトラファンタスティックミラクル非常勤講師 3

しばらくの平穏が訪れる。
が、その平穏もあっという間に破られた。
次の授業が化学の授業だったのだ。
何故化学の授業が平穏をぶち破るのかと言えば、あの非常勤講師であるキサラはドロイド工学だけじゃなくて化学も受け持っていた。というのを化学の授業で入ってきたキサラを目の当たりにしてわかった。
「さぁ!授業を始めるわよぉ!!」
パンパンと手を叩いてキサラが入ってくる。
それから白板にはキサラ本人ではなく付き添いのドロイドがペンを持って白板に何かを記入している。
『量子と等価交換について』
と書かれてある。
クラスメート達はそれを見せられて困惑しているのは間違いなく、何故ならそれは教科書の何処にも存在しないセクションだったからだ。
「せんせー!教科書のどこにもないよォ」
とナノカが言う。
「常識に囚われてはダメなのよ!」とキサラ。
どういうこっちゃ…。
「いい?常識に囚われるのは科学を学ぶ上で最も取り払わなければならない事なのよ!この世の中、全ての物事が科学で説明出来る事だとは限らないのだからね!!」と、化学の先生にあるまじき物言いをするキサラ。この世の物事を数式で説明するのが科学者だろうに。
「はぁ〜い…」
ナノカはもう何も言い返さなかった。
テーブルの上には銀色の粉末と黄色の粉末が置いてある。そして試験管とバーナー…。この状態から察するに試験管の中にこの2つの粉末入れて熱してみて物質の変化を見るという授業なのだろう。
そしてキサラは粉々に砕かれた銀色の粉末と黄色の粉末をみんなに見せる。それから、やはり俺の予測したとおり試験管の中に2つの粉末を混ぜながら入れた。
「さて、ここに鉄と硫黄があります!これを熱すると何になるでしょうか?チッチッチッチ(タイマーを計る仕草で)はい!藤崎さん!」
あ、俺か。
「硫化鉄?」
「一般的に言われている事はそうね」
一般的じゃない化学変化があるのかよ!!!
「それでは熱してみましょう」
試験管をバーナーに近づけて熱するキサラ。
しばらくするとあの小学生の頃にやったような化学の実験での雰囲気のなか、卵が腐ったような臭いが充満しはじめる。懐かしいなぁ、あの頃は化学の実験っていうとマッドサイエンティストがやるようなものを想像してたっけ?ちょっと子供すぎるかな…?まぁとにかく、キサラは試験管をある温度まで温める、と、中が赤く輝き始めた。どうやら硫化鉄が出来上がったっぽい。
「さぁ…キミカさんが言うとおり、硫化鉄がでるかなぁ?それとも、他のものがでるかなぁ…?」
え?なに?引っかけ問題なの?
「何がでるかな〜何がでるかな〜(試験管の中のものを教壇の上に広げる)はーい!鉄と硫黄で…ダイヤモンドができましたァ!」
おい!!
キサラの持っていた試験管から棒状に変化したダイヤモンドがコトン、と教壇の上に転がっているではないか。どう考えてもダイヤモンドか、もしくは何らかの宝石である事には変わりない。
「「「「ええええええええええええええ!!」」」」
ドヤ顔で俺を指さしながらキサラは、
「硫化鉄だと思ったァ?思ったァ?ざーんねーん!ダイヤモンドでしたー!」と言った。
何が残念だよ!お前の頭が残念なんじゃー!!
「このようにたまに化学の失敗してダイヤモンドが生成されます」
「「「「ええええええええええええええ!!」」」」
呆れた顔をするクラスメート。
しかしその中で血眼になって鉄と硫黄を炎にかけるメイリンが居た。…いや、それ絶対ダイヤモンドにならないから!!あれはドロイドバスターの物質変換の技だから!
「失敗した!!キミカの分もくれ!」
駄目だコイツ何とかしないと。
まったく状況を理解しようとしないメイリンに面倒くさそうに硫黄と鉄を渡した俺。そんな様子を遠巻きに見ていたキサラ(先生)はつかつかと俺達の元へとやってきて、
「どう?うまくいってるゥ?」
とドヤ顔で聞いてくる。
ったく、あんたが余計な事を吹きこむから貧乏メイリンが血眼になってダイヤモンドの生成をしようとしているぞ。
「よし…今度こそ!!」
十分に温めたその試験管を持ったメイリンは頬を高揚させながらそう言って、試験管をテーブルに向けて降っている。と、そこでキサラが試験管をちょっと触って、
「…メイリンさんの鉄と硫黄の化合物は何になったかなぁ?」
とわざとらしく聞く。
「でろ…でろ…!!!ダイヤモンドでろォォ!!」
気合を込めてメイリンは試験管を振り回した。
(ちゃりんちゃりーん、ちゃりーん)
試験管の中から何か音が出るものが出てきて転がった。
って、ちゃりんちゃりーんって…。
その物質の一つを俺はつまんでみて驚愕した。
10円が…。
試験管の中で鉄と硫黄を熱する実験をしたら十円が出てきた!
「じゅ、十円…!!!十円しか出なかった!!」
メイリンは出てきた十円玉を2枚、震える手に持ってそう叫んだ。もう涙声も混じってる。十円しか出なかったところよりも化学の実験中に試験管から何故か十円玉が2枚も出てきたところに疑問を持てよ!!
「10円じゃうまい棒しか買えない!!」
と、メイリンは涙を流しながらも出てきた10円を財布に入れた。
クラスのみんなも半信半疑でやってると、キサラが通ったテーブルだけは化学変化が失敗していた。あるものはプラスティックの塊が出てきたり、あるものは試験管の中から試験管が出てきたり、あるものは試験管の中から黒い長い髪の毛と爪が出てきたりした。
もうこの状況を把握している人間もいる。俺とマコトについては既に知っていたがコーネリアは自分と同じような能力を使っているキサラがドロイドバスターである事を感づいたようだ。
キサラは相変わらずのドヤ顔で、
「このように、世界には化学では説明できない物事が起きます。鉄と硫黄を熱すれば硫化鉄になるのか…それは99%ぐらいはそうなのかも知れませんが、たまにダイヤモンドなどになることがあります。これを量子力学と言います」ってなんでやねん!
キサラは白板をコンコンと叩いて先程ドロイドが記入した白板の『量子と等価交換について』の量子の部分を指し示している…。
それを聞いていたクラスメートの1人、ナノカは興奮気味に、
「せんせー!等価交換っていうのはなんですか?質量保存の法則?」
「ふっふっふ…良い質問ですねぇ」
キサラはそう言って、今度は別の鉄粉と黄色の粉(硫黄)を用意する。そして机の上にそれをばら撒いた。
「『等価交換』…それは錬金術の中での話…。太古の昔、化学変化がまだ未研究だった頃、錬金術師が言い出したのが最初です」
なんか錬金の「錬」の字が出たところから既に胡散臭いぞ。
錬金術師は物質を変化させて別の物質を創りだしました。それには同じ量の物質からは同じ量の物質しか作られないという法則が存在しているのです…これを等価交換と言うのです(白目」
そう言って教壇の上を手のひらで「パンッ!」と叩いた。
すると教壇の上に散らかっていた鉄粉と黄色の粉(硫黄)が光りだして、あっという間に…。
ナンテンドーDSへと変化した。
…っておい!!
ナンテンドーDSは鉄粉と黄色の粉からできてるのかよ!材料少なすぎだろうが!!!絶対に途中で色々なものが変換されてるだろうが!しかも少し量が少なかったからか教壇の隅っこが欠けてるし!教壇の隅っこもナンテンドーDSの一部になってるし!!
「すっげーー!!!すっげーーーーー!」
ナノカは教壇に駆け寄ってキサラが創りだしたナンテンドーDSを手にとってまじまじと見つめている。そして電源を入れて、
「モンハンが入ってるよ!!」
おいおい!!ソフトウェアまで入ってるのかよ!!
「しかも結構育ってる!ジンオウラ装備だ!!」
もう錬金術も超えてるじゃねーかよ!!
ドヤ顔でキサラは、
「化学に不可能はないのよ!」
と吠える。
不可能無さすぎワロタ。
ナノカは興奮しながら、
「先生もしかして錬金術師なの?!もしかして鎧で中身が空っぽの弟さんがいるとか?人間を錬成しようとしてホムンクルスを錬成しちゃったりとかあるの?!」と言ってる。
「魂の錬成は賢者の石がないとダメねぇ」
ってもう化学でもなんでもねーし!!
ほら、こんな事やってるとそろそろ来るぞォ…。アイツが。
ほらきた。
キサラの後ろに立つ190センチはあろうかという男。ソラ。そしてその高さから拳が振り下ろされてキサラの頭に直撃。
「あだッ!」
「お前は何を教えてるんだ!化学か?錬金か?オカルトか?」
「世間の厳しさを教えてるのよ!」
「どこの世間の話だ!!…鉄と硫黄がダイヤモンドに……なるわけねーだろ!宇宙の常識を覆すな!」
襟首ひっつかまれてキサラは退場させられた。