92 突入せよ浅間山ホテル 4

同窓会の会場に現れたのは覆面で顔を覆った男達だ。
手にはアサルトライフルを持っている。身体は防弾チョッキのようなものを着ており、中には手榴弾みたいなものを腰にぶら下げている奴もいる。さながら軍隊の特殊部隊だ。
その連中がさっきまで俺達をフロントで受け付けたあの女性も人質にして、ぞろぞろと数えるだけでも10名ぐらいは入ってきたのだ。
会場は静まり返った。
しかし、あのケイスケをイジメていたと話していた連中の仲間でかなり泥酔していた奴はそんなのお構いなしで、「おぉ?お前田中じゃねぇ?田中何してんの?そんなスペツナズみたいな格好して」とか言いながら酒瓶片手にふらふらとテロリストっぽい連中に近づくではないか。他の仲間はそれを止めようとしたが、もう時既に遅し。
アサルトライフルの照準を酔っ払いに向けて放つテロリスト。
サイレンサーでもつけているのか発砲音は何もしない。だから電気でも走ったかのように酔っ払いがビクビクと揺れ、身体から血飛沫が上がってその場に倒れる様子は異様だった。
会場に響き渡る悲鳴。
クソッ…せっかく料理や酒も楽しもうと思ってたのに何でまたテロリストが出てくるんだよ!!
「んんん?キミカちゃん、何が起きたのォ?」
とマコトが酔っぱらいのように、いや、酔っ払って俺に聞く。
「なんでもないよ、テロリストが入ってきただけ」
「あ〜…そっかぁ…テロリストが入ってきただけかぁ」
既に完成しちゃってるマコト。
俺も酔ってはいたけどまだ意識はしっかりしてるほうだ。
連中の動きを観察してみよう。
テロリストどもはプロのテロリストらしく、さっさとホテル内のコンピュータシステムを把握していて入り口のシャッターを締めた。ホテルの従業員にカーテンなどを締めるようにと指示を出している。
クラスメートの一人が撃たれて死んだのを見てさすがに他の酔っぱらいも現実を認識したみたいだ。テロリストのボスらしき男が言う、
「パーティは終わりだ。いつまで酒を飲んでるんだ。さっさとここに座れ」という指示に従っていった。
バーテンや従業員、それから同窓会に来ているメンバーをフロアの一箇所に座らせている。そしていよいよそのテロリストの一人がいっこうに座りそうにない俺達のほうへと向かってきやがった。
「さっさと座れ!死にたいのか?」
と、俺に銃を向けて来やがったので俺はグラビティブレードを引っこ抜き(0.0012秒)、男の持っていたアサルトライフルを腕ごとバラバラに切り刻んで(0.0024秒)、慌てた男をバラバラに切り刻んだ(0.0045秒)そして床に落ちたテロリスト野郎の頭にグラビティブレードを突き刺して、
「あたしはテロリストは嫌いなんだ〜」
と言った。それから、
「あたしと横にいる子に指一本触れたらこんな風になるから」
と一言。
グラビティブレードはベキベキと音を立てながら、テロリストの頭をブラックホール内へと吸い込んでいった。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
でました。「うわぁぁぁ!」でましたよ。本日の「うわぁぁぁ!」でました。必ず居るんだよね、俺が仲間を殺したらそれ見て発狂して乱射してくる馬鹿が。この命知らず君♥
俺はその乱射を見切って弾を弾き飛ばしながら馬鹿に近づいて、素手でそのアサルトライフルをはじき飛ばして身体を半回転させ、男の背後につく。それからブレードを男の首元に持ってきて、
「あたし達は旅行を楽しんでるだけだから。テロ行為をしたいならどうぞご自由に。でも…言ったよね?あたし達にちょっかい出してきたら…どうなるか…」
そして怯えるテロリストの背後から俺はブレードを縦一文字に斬る。男は綺麗に縦に真っ二つになった。
さすがにそれからは「うわぁぁぁ!」は無かった。
テロリストどもは想定の事態が起きたことに驚愕すると共に、触れてはならない存在が自分達の前にある事を馬鹿な脳味噌の叩き込む事になった。人の防衛本能は偉大だ。ちゃんと生きる知恵というものを授かっている。目の前で仲間が肉塊になり、真っ二つにされたのなら、それが次の自分になるという事をわずか5秒程度の間で理解したのだ。
それからは連中は俺達は居ないものとして、おどおどとしながらテロ行為をしていた。
ホテルの従業員を一箇所に集めて、その横に同窓会メンバー(俺達を除く)を集めて色々と説明している。
聞き耳を立ててるとどうやら身代金などを目的にホテルを襲撃したという事、それから仲間の政治犯が刑務所に入ってるのでそれの釈放、国外への逃亡の手助けなどなどが要件だった。この同窓会が行われるタイミングにあわせて襲撃したのはケイスケのクラスメート連中はケイスケ以外にもお金持ちが多く、それらの親や会社、関係者からの身代金が貰えるのが大きいのだろう。
俺に怯えながらもテロリスト達は淡々とそれらの事を人質に話し、ケータイで警察に話し、これから長丁場になるので食料がどれぐらい残っているのかを把握するためにコックなどと話をしていた。
というところでようやくマコトが目を覚まして、近くに転がっている首の部分だけない肉塊やら、魚みたいに3枚に降ろされてる死体を見て、「敵だー!!敵がいるよぉぉ!!」と身構えている。
「マコト、あれはテロリストで、あたしにちょっかい出してきたから粉砕したの。そして今テロリストはああやって身代金目的に人質を取って立て籠もり中」
「ええええ?ちょっ、ちょっと待ってよ。状況が読めないよ!!なんでボク達は無事なの?なんでボク達を恐れてるの?」
「そりゃあたしがブツ切りにして3枚におろしたから」
「事件は解決したの?警察は?なんでアイツら人質をとってるの?」
「事件は解決してないけど、あたし達は別に警察じゃないし…」
「えええええ!!!解決しようよ!」
「へ?なんで?」
「だってほら…その、ボク達は…その…ヒーローだし…」
「」
「ちょっ、なんだよ!その変な顔やめてよ!」
「マコト…あたし達は今日、ここに何をしに来たのかな?」
「え?…えっと…そりゃ…ホテルで料理食べて温泉に浸かりに…」
「でしょ?」
「ま、まぁそうだけど、非常事態だよ!」
「マコト…あそこにマコトの知り合いがいるの?」
「いない…けど」
「マコトの知り合いじゃないけど、今こうしてる間にも世界中では沢山の人間が理不尽な死に方をしてるんだよ?」
「え?いや、だって…その…」
「マコトは流されすぎなんだよ。今、確かにホテルがテロリストに襲撃されてるっていう『流れ』があたし達を支配してると思う。でも、それに流されて行くのって本当に強い人間なのかな?どんなに強大な力を手にしていても相手にそれをいいように使われてるんじゃ、ただの兵器だよね?あたしたちは兵器じゃない。人間なんだよ。そして人間は本来なら自由なんだよ。あたしたちはここで料理を楽しみ、お酒を楽しみ、そして温泉を楽しむ。人生の限られた貴重な時間を楽しむの。それを無断で踏みにじる連中がいるのなら迷わず粉砕してもいいと思う。けれど、わざわざ自分から余計な事に時間を割く必要はないよ。テロリストの相手なんて暇な時にでも出来るんだからさ」
「う…うん…」
マコトは俺の説得に折れたのか、渋々と元のカウンターの席に腰を下ろしておつまみを口に放り込んだ。