80 一年の計は元旦にあり… 3

「あ、あけましておめでとう…にゃ〜ん…」
玄関から入っていくと広間があってケイスケは麩をソーッと開けてそこにいる親戚一同に挨拶をする。
俺もナツコもそれに続いて、
「あけましておめでとうございます」
と頭を下げる。
畳が敷き詰められた広間にはちゃぶ台よりもちょっと大きなテーブルが3個ぐらい並んでいてその一番奥にケイスケのお父様が座っている。後は親戚の人達だ。
ナツコを今まで見てきた俺からすると、やっぱりお金持ちの系統なのかな。こういう家だけど着ている服はとてもしっかりしてる。みんな和服で統一されてて洋服な俺が目立つ…。
「おぉ、ケイスケか。よく来たな」
とお酒で顔を赤くしたケイスケ父が言う。
「うへへ…(白目」
とケイスケは変な声で笑ってから開いている座布団のところに座る。俺とナツコもそこに続いて座る。
「ん?ケイスケよ、そのオナゴは誰だ?」
おお?
「んん?フィアンセのキミカちゃんですにぃ」
「んん?前は髪の色は黒ではなかったか?」
その瞬間、俺とナツコとケイスケは毛が逆立ったよ。
そういえばそうだった。
前はお父様が黒髪の女が好みだからと俺はわざわざドロイドバスターに変身したんだ。つまり、茶色髪の女に何か恨みがあるのか…もしかして、斬りすてられるんじゃないのか…!!
俺はグラビティブレードをいつでも出せるように柄を握った。いざとなれば反撃できる姿勢になっておかなければな…。
「きき、き、きき、キミカちゃんは冬になると髪の色が茶色くなるんですにぃ…フヒヒ…」
うわぁ…苦しい言い訳ェ…。
犬や猫が冬になると毛が増えてくるのと同じ理屈か。
「そうか。体温の保存の為か…わしは生物学があまりよくわからん。ケイスケがそう言うのならそうなのだろう」
とハッハッハと笑っている。親戚一同も笑っている。
いやぁ…。俺も初耳だよ…。
人間の髪の毛の色って変化するんだね。
それからは親戚の女性がケイスケや俺やナツコにお味噌汁を持ってきてくれたりとかお酒を持ってきてくれたりとかした。用意されたお刺身だとかお寿司だとかおせちだとかを一通り食べたけども、なんかお腹が減ってこないんだよ、緊張して。
それはケイスケもナツコも同じみたいだ。
早々に食べ終わってケイスケも俺もナツコもその部屋を後にする。
そして廊下にて。
「ふぅ…緊張して喉を通らないですにぃ…」
「う、うん」
「ですわね…」
3人は溜息。
「今から帰るの?」と俺が聞く。
ケイスケはブルブルと首を振って、
「こんなにすぐに帰ったらなんて言われるかわからないにぃ!」
まぁ、そうだよね。
「秘密の部屋に待機ですわね」
とナツコ。
秘密の部屋?
「時間が来たらお父様が多分、南軍のほうに挨拶に行くんですにぃ。その時に一緒についていく事になると思うにゃん。それまでは…秘密の部屋で待機ですぉ」
3人はそのまま2階へと上がる。
どうやら秘密の部屋っていうのが2階の奥の部屋にあるらしい。
木の板が廊下を歩く俺達に沿って音を立てる。乾いたギィギィとする古めかしい音だ。脇には客室として使われている和室があって親戚達の荷物がそこに置いてある。
そして一番奥の部屋だけは障子ではなくて木のドアだった。
「ふんッヌ!」
ケイスケが木のドアを押す。
「ふんッ…ヌッ!…はぁはぁ…開かないですぉ」
「あたしが開けようか?」
「お願いしますですぉ」
グラビティコントロールで扉を思いっきり開ける。ガリガリと音を立てて木の扉が開く。乾いた埃の臭い。
「ふっふっふ…秘密の部屋にようこそ…」
ケイスケが部屋の中に入っていく。
どうやらそこは元々ケイスケの部屋だったっぽい。なんでそれが判るかって?そりゃ部屋の至る所に人の形をしたフュギュア?だかロボットだかわからないものやらアニメのポスターやらが並んでいるからだよ。こりゃ相当なニートが住んでたんだ。
「親戚が集まって気まずい雰囲気がケイスケの周りを支配する時、彼はこの部屋に逃げ込んで時間を潰すのであった…」
「そんなモノローグいらないですぉ!」
ケイスケは顔を赤くして俺に言う。
「ここはお兄様がこの家に居た時の部屋ですわ」
「へぇ〜…その時のままの状態で残してるんだね」
「ここは秘密の部屋になってるんですにぃ」
「お父様も知らないの?」
「知りませんにゃん。っていうか、お父様は基本的には2階に上がってきたりはしませんですにぃ。この部屋も扉をわざとキツくしてお父様の力では開けれないようにしてますにゃん!」
なるほど。
それでさっきは扉が開かなかったんだ。
そんじゃ、ここで時間潰しかな。