73 右と左のライアーゲーム 9

ジライヤこと東条は鬼の面を装着した。
その瞬間、ドロイドバスターが変身した時に現れる黒の波動が周囲に放たれた。それに元東条の部下であるこの男も気づかないはずはない。何が起きたのかと牢屋を見る。
そこには鬼の姿をした東条…ジライヤがいる。
「そ、そんな…、あ、あなたが、まさか」
あなたがまさかあのテロリストのジライヤだとは、夢にも思わなかったって言いたかったんだろう。けれどもまっ先に懐からハンドガンを取り出したのはさすがは軍人だ。
それも無意味なんだけど。
ジライヤが放つグラビティコントロールで牢屋が曲がりくねり、意味のないものになっていく。死へのカウントダウンだ。
裏切り者の元東条の部下はハンドガンをジライヤに狙いを定め撃ちまくるが全部はじき飛ばされる。
ジライヤが手を開くとパラパラと銃弾が落ちる。
そしてあのドスの効いた声でジライヤが言う。
「貴様が裏切ったのは私だけではない。日本であり、日本国民だ。この国を守って死んだ英霊達にあの世で挨拶するがいい!!」
印を結ぶジライヤ。
「土遁!電光石化!」
ジライヤの口からプラズマに混じった白いゲロみたいなのが吐き出されてオタオタとマガジンを補充しようとしていた元東条の部下に襲いかかり、あっという間にその身体の殆どを覆う。
それから1秒経たない間にペキペキと乾いて割れるような音が響いた。そこへジライヤの蹴りが…。
男の身体のゲロがついた部分はあっというまに石化したのだろうか、ジライヤの蹴りで木っ端微塵に吹き飛んだ。
「うへぇ…これ、どうなってんの…ヒックッ」
酒瓶を持ちながら男の死体に近づく俺。
「何をしている!さっさとスカーレットを始末しろ!」
なんだよ、暴れてもいい合図だったのかよ。
まぁ、まだ酒が身体に残ってるけど…俺もドロイドバスターへと変身。なんだか身体がまだフラフラする。酒が抜けてないらしい。
「んでェ…作戦は?…ヒック…」
たぶん、酔って顔真っ赤にしてるまま言う俺。
「なんだ貴様…まだ酔ってるのか?」
「それは置いといてぃヒック…」
…。
「スカーレットは既にここに来ている。そしてここは敵のアジトだ。つまり、皆殺しにすればいい。奴は我々が暴れればすぐに逃げ出すだろうが、変身する前に殺す。そうなる前に奴はドロイドバスターに変身するだろうがな」
皆殺しって言ってもねぇ…。
こっちは二人しか居ないんだよね。
そう考えてる俺の隣でジライヤがまた印を結んでいる。
「口寄せの術!」
え、ちょっ、口寄せ?
牢屋のあった部屋の地面にヒビが入り、そして地面から機械的な何かが…これはドロイド?いや多脚戦車か?え?これ地下に埋まってたの?いや…ジライヤが口寄せしたって事か。なんだ、どっか別の場所から呼び出せる能力があるのかよ。
思った以上に大きなその多脚戦車は牢屋をぶち破って地上まで建物を突き抜けていった。と、同時にサイレンが鳴り響く。連中のアジトだからか敵に襲撃されました的な合図をサイレンを利用してやってるんだろう。
バキバキバキバキという速射砲の音が鳴り響く。
多脚戦車の砲塔がそこら中にむかって撃ちまくってるらしい。
「あぶりだしてくれる!」
地面を蹴りジライヤは多脚戦車タイプのドロイドの上に乗る。
そして印を結び、
「火遁!獄炎連弾!!」
周囲の空気を吸い込みお腹がどんどん膨らむジライヤ。そして一気にその中の空気と何かを混ぜてプラズマにして吐き出す。光輝くプラズマボールが連射で口から吐き出され周囲を火の海にする。
火の海の間からスカーレットの仲間が銃を撃ちまくってくる。
俺は武器リストからBFGを取り出して連中に向けて放つ。
巨大な光の塊がその光を見る者を炭化しながらすすんでいく。バリアが無ければ防ぎようがない。スカーレットの部下はただの強盗団であるから個人用バリアを携帯しているわけでもなく、どんどん炭化していく。それでも次から次へと建物の中から出てくる出てくる。蟻の巣に水を垂らした時みたいに人が湧いてくる。
しかし、撤退命令が出ているのだろうか、俺達に銃撃を浴びせながらも武器を捨ててトラックやら車に乗って逃げ出そうとする。
俺はそのトラックの進路に向かって手を銃の形にして、キミカインパクトを撃ちこむ。必殺キミカインパクトは時間差で最も近い超重力物質(地球)に向かって垂直で重力波攻撃を行うのだ。俺が発明した必殺技ですけどね。
時間差で発動したキミカインパクトはトラックをぺっちゃんこにして、中にいる人間もぺっちゃんこにした。
「はははは!人がゴミのようだ!!…ヒック」
と俺。
と、その時だった。
俺の真横から高エネルギー反応が。
俺のバリアがあっというまに削れて、辛うじて直撃は避けたけどガードした俺ごと吹き飛ばした。高エネルギー反応…それはスカーレットの強烈なパンチだった。
俺は吹き飛ばされて建物を突き破って突き抜けて次の建物を突き破って突き抜けて次の建物を突き破って突き抜けて次の建物を突き破って突き抜けて次の建物を突き破って突き抜けて次の建物を突き破って突き抜けてようやく止まった。
っていうかなんで建物がうまい具合に並んで存在してるんだよ。
「なにすんねん、くっそババア!!ヒック!」
瓦礫をグラビティコントロールで吹き飛ばす俺。
そのクッソババアこと、スカーレットはあっという間にジライヤの口寄せした多脚戦車を粉砕していた。
俺はショックカノンを引っ張り出して空に飛び上がった。そしてジライヤとスカーレットが戦闘している中でスカーレットに狙いを定めて発射!発射!!オラオラ!!泣いても許さないぞオラァ!
それらの全てをバリアが防ぐ。
「ちょ、どうなってんの…ヒック」
「スカーレットはバリアを中和する。そして自らのバリアとする。貴様は今まで何を学んでいたのだ?バカが」
とか戦闘中にもご丁寧に俺に文句を垂れるジライヤ。
…うぜぇ。
「2対1とは卑怯じゃないの?!しかも女相手に!それが日本男子のすることなのぉ?!」
スカーレットもそれほど余裕じゃないらしい。
ただ、奴のパンチは凄まじい。今まで俺は気づかなかったけど奴のパンチがやたらと重たいのはバリアを突き破っているからみたいだ。ジライヤのプラズマフィールドを貫通して命中させている。防御はしているものの殺られるのは時間の問題だ。
しかも俺がスカーレットのバリアを若干剥がしたはずなのに復活しているのだ。こいつ…。もしかして…。
ジライヤがタックルで弾き飛ばされたのを期にして俺が次にスカーレットに殴りかかる。武道の心得があるのだろうか、俺のラッシュをある程度は交わしている。それでもバリアが着実に削ぎ落している。そして距離を少し置いたところでグラビティブレードを引っ張りだして居合い斬り。と、同時にキミカインパクト。
案の定、スカーレットは居合い斬りを素手で防いだ後に、反バリア衝撃で後方へとはじき飛ばされて、そこに俺のキミカインパクトが着弾する。必殺の時間差重力波攻撃だ。
ずしーん、と音がした…。
その後だ。
俺はとんでもない光景を目の当たりにした。
「マ、ジ…で…ェヒック」
スカーレットが俺の重力波攻撃を受けながらも、それに耐えてる。まるで見えない天井がスカーレットの上から伸し掛かってくるのを背負って防いでいるように。
「しゃ…ぁぁぁ…ああああーーーんなろーーーーッ!!!」
まるで重力波攻撃が「あー俺、無理だわコレ」って言うかのように、スカーレットだけを残して周囲の地面を1メートルぐらい掘り下げて終わる。耐えやがった…。
しかしその程度で驚いて終わる俺ではない。
残り少しのスカーレットのバリアを削り通してやる。
「おらおらおらおらおら!」
怒涛の連続攻撃だ。俺の持てる全ての力を使ってスカーレットに息をする暇も無いほどの連続攻撃を仕掛ける。
防ぐのに精一杯で反撃する事すらできないクソババア。そしてついにみぞおちへのストレートがキマリ、スカーレットは瓦礫の中へと吹き飛んだ。
そしていよいよだった。
瓦礫の中から「蓮宝議員」が出てきたのだ。
瓦礫をかき分けながらスカーレットの中の人が出てきたのだ。どうやら攻撃喰らいまくると変身前に戻るらしい。
こりゃ、トドメをさせるか…!!
「ちぃッ…」
そう言い放って蓮宝議員は自らの拳をもう片方の手にパンッと打ちつける。と同時にあのスカーレットに変身する。これが奴の変身の合図って奴なのか。攻撃を受けて一旦は変身がとけたものの、また復活しやがった…。