39 勧誘せよ24時 7

プールに新入部員(予定)を連れて行く。
そこには何故かいつもの練習風景があった。ていうより、みんな真面目な顔をしていつもならやらないようなハードな練習風景を「演じて」いた。これが先輩のプライドという奴か…!!
「ここはちょっと背筋を伸ばすようなフォームで!」
いつもはアンタはフォームなんてどうでもいいとか言ってんじゃん…。
「そこ!顔を上げて!顔をもっと上げて!」
と厳しい視線を送る女子水泳部のキャプテン。
そんな気迫を醸し出している先輩方の練習風景は新入部員(予定)達に伝わっているのだろうか…。俺はふと新入部員(予定)達の様子を見てみる。
そんな先輩達の気迫に押されたのか、新入部員(予定)達は緊張で直立不動のまま視線はウロチョロとはしているものの、熱心な瞳は釘付けになっていた。
女子の水泳部と、俺のスク水姿に。
「はぁ、ダメだこりゃ…」とため息を吐いて、なんとなく事の顛末を想像してしまった俺はプールサイドの脇の椅子に腰掛けた。
案の定、新入部員(多分見学で終わるだろう)達は「スク水姿の女の子ってこんなに肩幅があって身体が大きかったっけ?」なんて思い始めたのだろう。もう先輩方のほうを見る事はなくなり、先輩方の姿を見るようなフリをして俺のほうに目を釘付けにしていた。男が女にエッチな視線を送るときっていうのは本当に情けない顔になるんだな。俺も男の時にそんな目で女子を見ていた事があったと思うと今更ながら情けない気持ちになるよ。
俺はおっぱいの脇のほうから人差し指で真ん中に向かって「むにゅ」と押してみて、新入部員どもが今まで見学ではなく目の放養をしていたのかどうかを確認してみた。案の定だ。新入部員どもはチラチラ視線を移動させていたさっきとは違って、「凝視」という言葉どおり、目は一点、俺のおっぱいに集中していた。それも一人残らず全員だ。
「あはははは、アホがおる、アホがおる」
思わず俺もそのマヌケ度に笑ってしまった。
と、その時だ。
「何をしているんですかおおおおおおおおお!!!」
この声は…ケイスケじゃん。
「全員プールから上がるにゃあぁぁぁあああん!!」
手をパンパンとたたきながらデブがぜぇぜぇと息を切らしながらやってきた。顔は真っ赤、汗ダクダク。こいつはプールに突き落とされたら、火照った身体が冷たい水に当たってさぞ気分がいいだろうな。
しぶしぶ部員達はプールから上がってくる。
「何って、新入部員に見学してもらっていたんじゃないかよー」
ナノカが顧問のケイスケに言う。
「なんで新入部員があんなむさくるしい男ばっかりなんですかぉ!今までスポーツの『ス』の字もやっていそうにない人達に見えますお!絶対に今まで帰宅部で途中で道草してアニメショップでグッズを買って『本日の戦利品』とか言ってネットで紹介した後は深夜3時ぐらいに大人向けのアニメを見てるタイプですお!!!」
そりゃお前の学生時代じゃん…。
まぁ、実際にそうだろうけど。
キャプテン水口は先生の前に立ちはだかって、
「たとえそうだったとしても、今から更生すれば間に合うと思うんです。大人になってもいつまでもアニメばっかり見ているようなダメ人間にならなずに、甘酸っぱい高校生活を送ってもらって、彼女の一人ぐらい作って、人並みに就職して、家庭を築いて…。彼らには先生のような大人になって欲しくないんです!」
おーい…。
「真っ当な人間になる可能性はゼロだにゃん!目を見たら判るぉ。さっきから君たちは一生懸命練習して彼らに見学してもらおうとしてたみたいだけどにぃ…彼らが釘付けになっていたのは女子水泳部員のスク水姿だにゃん!!」
とケイスケが言うと、
「やだー!!」「エッチ!」「もーしょうがないわねぇ」「キモぃょ〜」と女子部員から声が聞こえる。だが次にケイスケが言った言葉で態度は一変。
「しかも途中で『やっぱり女子っつってもガタイがよくて魅力がないなー。キミカちゃんのほうが大人になる途中の美少女のエッチな身体つきだから断然いいや』と思ってキミカちゃんに視線を集中させてたにぃ」
「んだとぉー!」「変態!!」「てめぇこっちを見ろ!」「キめぇーんだよ!!!」と女子部員から声が聞こえる。そりゃ怒るわな。
「でも、先生、そんな事言ってたらどうやって今年の部員を獲得すればいいんだよ。つか、男子の部員でガタイがある奴って新入部員にはいないですよ。そもそもこの学校でそういうタイプの男子が来る事が珍しいからさ」とキャプテン。
「男子男子男子男子男子男子…男子にばっかりどうして拘るのですかお!!!君はホモなのかにぃ!!女子を入部させるにゃん!!とびきり可愛い女の子を!!!」
うわ…最低だこのデブ。
「んな事言っても、募集掛けてこれだしなぁ…」
キャプテン水口は頭をボリボリ掻いた。
「とにかく、この水泳の『ス』の字のやる気もない出歯亀生徒は水泳部にはいりませんにゃん!!」
お前が言うかよ…。