30 リア充記念日 5

「それは先生の話でしょ」
ユウカのその言葉をかわきりにして、ケイスケの寂しい学生時代の話に同意するどころか、クラスではさらにケイスケの意思、意向に反発する雰囲気がヒートアップしていった。
「違います。何故ならスクールカーストはどんなところにも存在しているからです。普段は授業を受けて部活をして帰るというルーティンにある学園生活、しかし、そこに発生したストレスは蓄積され、発散するところを探しているのです…。バレンタインでもチョコを貰った人、あげる人、貰えない人、あげない人…そういったカーストが現れて、下位カーストに対して『ネタ』としてバレンタインで笑いを取ろうとする輩がいるのです…」
「だからそれは先生の時代の話でしょ。このクラスでそんな事する人いないってば」とユウカが言う。クラスのみんなもそれには賛成しているのか、うんうんと頷いている。
「いないかいるか…ではないのです…。そんな人が出てくる前に、バレンタインを廃止するのです…。先生のクラスではイジメは許しません。つまり、イジメに繋がるであろうイベントも、許しません!」
なんという理屈。
一気にヒートアップする反ケイスケ怒声。
「ふざくんな!」「日本語でおk」「消えろデブ!」「お前の非リア時代の話を絡めるんじゃねーよ!」「非リアが感染る!」「ほんとちっさい器よねぇ」「頭に蛆が湧いてる」「先生はやっぱりキモイよね、キモイと思ってたけど」「デブでも食ってろピザ!」
さすがにケイスケはやり過ぎでしょ、これだけの反感が出ることをうけてもまだ持ち物検査を続けるつもりなのか。と、俺はケイスケにこれ以上暴走されると、俺がケイスケの家に居候している身である事で俺まで危害が加わる事を恐れて、とりあえずケイスケを落ち着かせる事にしたのだ。
「もう少し大人の対応したらいいんじゃないの。イジメを未然に防ぐっていうのは理解できるけどさ、殺伐した雰囲気だったらそれもイジメの原因になっちゃうんじゃないの」
と、俺はケイスケに届くか届かないかの声でそっと言った。
「キミカちゃん!」
などと言いながら俺につめよってくるケイスケ。
「な、なんだよ…」
ケイスケはそのまま俺の両肩を引っつかみながら、
「忘れたのですかぉ!!キミカちゃんが前にいた学校ではチョコを貰えてなかったという事を!」
うわー!やめろ!やめてくれ…その時代の話をするな…。ってかなんで知ってんだよ!
ケイスケはさらに俺の肩を掴んでガクンガクンと揺らしながら、
「キミカちゃんなら先生の気持ちが判ってもらえると思っt…んぉ?」
ケイスケの視線は俺の机に向けられていた。
あー、見ちゃったのね、俺の貰ったチョコ達を。
「キミカちゃん、こ、これは…」
「貰っちゃった」
「キミカちゃんもそっち側の人間に…」
「そ、そっち側ってどっち側…」
「もし今日チョコを貰えなくても、さっきと同じセリフが言えると保証できるのですかおぉぉ!(涙」
う…。確かに、そう言われると反論できない。
「イジメを無くそうってセリフは!イジメられた事がある人が言わなきゃ!全然!言葉に重みが!無いんですおぉぉぉ!」
などと言いながら俺の肩をブンブンと揺さぶる。
「ったく、あたしがこのチョコを先生にあげたら、それで先生もチョコ貰ったことになるでしょ。これでいい?」
「!!!!」
「どれにしよっかな〜」
どのチョコをあげようかと迷っていた時、ふと俺の目は教室の隅っこでジッと俺を見つめていた男子に目があった。男子は俺と目が合うなりすぐに逸らし、俯き、表情は見えなくなった。だけれどその表情が何を物語っているのか分かった、気がした…。
たぶん、下駄箱の大量のチョコの一つがその男子からのチョコなんだろう。そういやキミカファンクラブの一人がそいつだったような気がする。
「ダメだ、やっぱりダメ。人に貰ったチョコを他の誰かに自分のプレゼントとして渡すなんてありえないや」
「ガーン!!」
「キミカちゃんのチョコが…もらえ、もらえない…(ガクガクブルブル」
「先生…それは生まれたばかりの小鹿の演技?」
しかしケイスケはそのままダッシュで教室を飛び出して行ってしまった。こういうリアクションは初めてだ。泣くか抱きつくか喚くかぐらいしかしなかったのに。ちなみに追いかけようとちょっとだけ思ったけど面倒臭いからやめた。