22 あけおめことよろ 1

冬休みが始まってクリスマスも終わり、どっちかっていうと日本でも温かいこの地方でもそろそろ雪がちらほらと降る頃、気が付けば大晦日となっている。
去年の今頃は俺は冬休みを普通の高校生として過ごしていて、年賀状などを親父に印刷してもらってちょっとペンでメッセージを添えて郵便ポストに放り込むなどの作業をしていたはず。
でも今年は親父もお袋もいない。
年賀状を出せるような相手もいない。
俺という人間はこの世から消えた事になっているからだ。
街を歩いていて目につくのは中高生ぐらいの年齢で親と一緒に買い物に来てる人達だった。そう。俺は今、親を失った一人の子供としてそいつらを羨ましいな、なんて思っていたりする。実に恥ずかしい事だけども。っていうか高校生なんだからもう親離れしてもいいだろう、なんて思われてしまうかも知れない。でも親離れなんて離れてもいつかはまた会える人達が自分達はちゃんと大人なんですよ?っていう口実に使っている単語なだけだと思う。俺は俺の意思に無関係に親離れしなくちゃいけなくなったからね。
まるでそこにいてはいけない、かのような重たい空気。
他人の幸せは誰かを傷つけることもあるのだと知った。
雪が5センチぐらい積もっている家の庭を足あとをつけながら進んだ。玄関に入ってやっとため息が溢れる。最近ようやくこの家が他人の家だっていう意識が消え始めた。
あのデブ(ケイスケ)はなんだかんだ言って、オタクだのキモイだの電波だの色々と噂が絶えないけど人としてはいい奴だし、妹さんのナツコにしても趣味はアレだけど上品なお嬢様で俺がイメージしていた「女=気性が荒くてわがまま」っていうイメージを崩してして嫌いじゃない。
つまり、俺は色々失ったけど、代わりに何かを手に入れた…のかな?
2階から映画か何かの音が聞こえるからナツコは帰ってきてるのだろう。多分ホラー映画でも見てるんじゃないかな。ケイスケにしてみれば冬は「冬コミ」なるものがあるらしく、初詣も「聖地巡礼」をするって前誇らしく言ってたっけ…。ん?っていう事は…。
俺は急いでキッチンに向かった。
あぁ…キッチンの上に紙が置いてある。
「大晦日は家に帰れないにゃ〜ん。食べ物は何か買って食べてくださいにぃ。みんなが愛するケイスケお兄さんより」
マジ…かよ…。